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大盗賊
Lost World of Sinbad
    1963年、日本 
 監督   谷口千吉 
撮影   斎藤孝雄 
編集   黒岩義民 
 美術   北猛夫 
 照明   隠田紀一 
 特技監督   円谷英二 
    約1時間37分 
画面比:横×縦    2.35:1 
    カラー 

ケーブルテレビで放映
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 超自然現象は起こるものの、怪奇映画とは呼べません。日本を飛びだした呂宋助左衛門(三船敏郎)が、流れ着いた東南アジアのとある国で、王位を巡る陰謀に巻きこまれる冒険活劇といったところでしょうか。英語タイトルが『シンバッドの失なわれた世界』となっている点からもうかがえるように、『バグダッドの盗賊』(1940、監督:ルートヴィヒ・ベルガー、マイケル・パウエル、ティム・ウェラン)や『船乗りシンドバッドの冒険』(1946、監督:リチャード・ウォーレス)などといったアラビアン・ナイトものを範にしたのではないかと思われます。その意味では、植民地主義的オリエンタリズムを内面化していると言われても致し方ありますまい。また、主人公は海賊になるんだと叫びながらも、少なくとも画面ではすぐ嵐にあってあえなく沈没、海賊行為を働いたという描写はありませんし、山賊団の協力を得るものの、自身が泥棒するわけでもありませんので、『大盗賊』という題名も、上記『バグダッドの盗賊』や、アリババと40人の盗賊との連想から選ばれたのでしょうか。
 お話は三船敏郎の大活躍を描くことに主眼があるわけですが、他方、あくまで添え物扱いであるかぎりで、4人の女性陣がそれぞれ魅力的に描かれています。とりわけ山賊の頭領(水野久美)といわくありげな女官(草笛光子)が印象的ですが、お姫様(浜美枝)と後にその侍女となる洗濯女(若林英子)も単なる飾り物には甘んじていません。
 悪役勢もこれに劣らず、悪宰相(中丸忠雄)や黒海賊の頭領(佐藤允)もさることながら、乱暴者で、出世のためなら主人公を敵に回すことも厭わず、それでいて主人公のことが気に入っているという兵士(田崎潤)が目を引きました。十手というか、琉球での(さい)ないし中国での筆架叉(ひっかさ)となるのでしょうか、これを二刀流宜しく、くるくる回す姿はなかなかかっこうがいい。
 何より、天本英世が妖婆役を演じています。残念ながら声は女性によって吹き替えられていました。妖婆に相対するところの仙人(有馬一郎)とともに、超自然分野を担当してくれます。
 そしてこの異国冒険譚では、お城が主たる舞台となるのでした。
『大盗賊』 1963 約20分:遠くの丘の上に城  開幕後20分ほどして、背を向けた主人公のはるか先、丘の上の城だか城砦都市が見えます。背後は海です。中央に高い塔があり、その右手、階段にしては大きすぎる、何やら段状の部分が右にくだっている。段状の部分と本体の間は中空になっているようです。
『大盗賊』 1963 約22分:丘の上の城 カメラが少し近づくと、中央塔の周りに方形の高い建物がいくつかそびえていることがわかります。
『大盗賊』 1963 約23分:城門前  次いで城門前が映されます。二本の円柱にはさまれた半円アーチの門には、跳ね橋がついています。その左右に石積みの城壁が伸びていく。城壁には一度折れる斜めの支え柱が何本か設けられています。その上には白枠に黒の銃眼が並ぶ。城壁の手前、地面に沿って鋸歯型に石が並んでおり、城壁との間に濠が掘られているのでしょう。カメラが行進する小隊とともに左から右へ動くと、城壁の右端が見えます。城壁の上はやはり鋸歯型胸壁で、端は尖り屋根の小塔でした。カメラが少し離れると、今度は城門の上の方が映る。左右に続く鋸歯型胸壁の中央で、前に迫りだした大振りの鋸歯型胸壁が、城門の真上にあります(追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。
 城内でまず登場するのは、宰相の部屋です。板貼りと漆喰の壁で、調子は暗めでした。窓には装飾的な紋様風の桟が施されており、これは城内に共通しているようです。
 この窓は中庭に面しています。
『大盗賊』 1963 約25分:城 中庭の階段 中庭の右奥には一度折れる石の階段があり、
また左奥の方には、下が半円アーチのアーケードになった、橋状の通路が見えます。
『大盗賊』 1963 約27分:城 二階(?)廊下  姫のところへ向かわんと、主人公は中庭に面した廊下に向かいます。これが中庭から見えた橋状の通路なのでしょうか。廊下はほぼ正面からとらえられ、かなり奥まで続いています。柱・床・壁すべて石造りです。手前半分ほどは両側に柱が並び、その左右は外に開けているようです。主人公は半ばほど、左下から階段をのぼって現われます。奥の方は屋内で、「{」を右倒しにした形のアーチが連なっている。手前の橋状の部分に対して、わずかに折れています。主人公はきょろきょろと動いた後、右半ばほどに開いているらしい通路に入っていく。このカットだけで本作品を見直した甲斐があったというものです。
 次いで主人公は、右下にある階段をのぼってきた先の廊下に現われます。奥にはやはり尖り曲線のアーチがあり、その下に白枠を施された扉がある。床には赤い絨毯が敷かれ、壁は紫がかっています。階段からの手すりは白い。その正面、向かって右に姫の部屋があるのでした。

 再び宰相の部屋です。部屋の一角にミトゥナ像が置かれていて、その台座に鍵を差しこむと、像が後方に回転します。向こう側は青い光にもやがたちこめており、下り階段になっています。そこを進むと、鍾乳石の垂れさがる暗い洞窟です。ここに「おばば」が巣くっています。
火焔紋の縁がついた鏡を覗くと、離れた場所が見えるのでした。 『大盗賊』 1963 約37分:城 地下の妖婆の部屋+遠見の鏡
 控え室での主人公と剣士、洗濯女とのやりとりを経て、城のミニチュアがズーム・インされます。姫の部屋に主人公が窓から忍びこむ。壁は白く、窓の桟は装飾的でした。
 姫の部屋の前にある階段をおりた廊下は吹き抜けに面しており、手すりも柱も白い。
『大盗賊』 1963 約39分:城 三階(?)の姫の部屋の前の階段 『大盗賊』 1963 約39分:城 三階から二階(?)への階段
右奥にも上への階段が見え、この視野は後にも何度か登場します。 『大盗賊』 1963 約40分:城 三階から二階(?)への階段と廊下、右奥にも階段
 また姫の部屋の前に戻ると、向かって右に暗い廊下が続いています。そんなに長いものではなく、奥に扉が見える。 『大盗賊』 1963 約42分:城 三階(?)、姫の部屋の前の廊下
この廊下から妖婆が現われ、メドゥーサよろしく、邪眼で人を石にしてしまう。難を逃れた主人公は、同じ廊下の突きあたりを右に走ります。ここの壁は白い浮彫を施したパネルを並べた態になっています。他方床には、落とし穴が設けてあるのでした。

 囚われた主人公は、おそらく地下なのでしょう、大きな臼を回す作業につかされます。壁は暗い石積みです。
 換わって宴の間が映される。部屋の周りにはアーチを支える列柱がめぐっています。アーチは黄色っぽく、柱は緑がかっている。床は黒に近い暗色。部屋の奥には数段あがってテーブルが置かれ、その向かい側ではアーチの上に歩廊があります。部屋の左右にアーチの出入り口が開きます。 『大盗賊』 1963 約47分:城 宴の間
 他方、主人公は女官によって逃がされます。石臼の部屋を出て、右の方を進むと鉄格子があり、そこを抜けると坑道が続きます。
石臼の部屋の出口、反対側は隅に階段のある部屋です。 『大盗賊』 1963 約51分:城 地下、石臼の部屋から地上への出口
『大盗賊』 1963 約55分:城 庭園 上にあがると屋外の庭園に着きます。
『大盗賊』 1963 約1時間0分:海辺の巨岩にくり抜かれた洞穴+縄梯子  宰相たちは海辺の巨岩にやってくる。巨岩のつけ根あたりは直線的にくりぬかれていて、その中が黒海賊のアジトなのでした。
 後をつけてきた主人公と山賊一味は、海辺の洞窟に入ります。この洞窟は一方でアジトに通じており、また途中に隠し扉があって、その中は蔵です。

 山賊たちのアジトでは幹が紫の木があったりもしますが、
『大盗賊』 1963 約1時間8分:城の見取図 とまれ主人公は凧で城に侵入する
追補:それに先だって主人公は城の見取図を見ていましたが、いやに簡略なのでした。追補の2;こちらでも触れました:「怪奇城の図面」の頁)。 
『大盗賊』 1963 約1時間14分:夜の城、上空から 夜空の下の城の模型が登場します追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。
『大盗賊』 1963 約1時間16分:城壁と塔+落ちていく凧 またこれはアニメーションなのでしょう、シルエットと化した凧が夜空を浮遊するさまは、翌年同じく円谷英二が特撮を担当した『宇宙大怪獣ドゴラ』(1964、監督:本多猪四郎)を連想させてくれました(追補:左に引いたのは少し後の場面から)。
 続くカットでは、上方に凧、背景に水平線、下方に俯瞰した塔の群れが映されます。右の二つは角塔で、左の一つが細身の円塔です。円塔の左脇には階段が見える。これもなかなか印象的な画面でした(追補:→「怪奇城の高い所(完結篇) - 屋上と城壁上歩廊など」の頁でも触れました)。
『大盗賊』 1963 約1時間16分:上半に凧、下半に塔の頂 『大盗賊』 1963 約1時間16分:上半に凧、下半に塔の頂
『大盗賊』 1963 約1時間16分:尖頭の頂附近、下から  山賊たちのカットを経て、次のカットでは手前に旗竿が映ります。この旗竿は円塔の四阿風に装飾的な物見の頂きにとりつけられているのです。
 シルエットと化した城が横にひろがるさまを、近くの地面からとらえたショットを経て、クライマックスの活劇になだれこみます。
『大盗賊』 1963 約1時間24分:城の中庭、上から 『大盗賊』 1963 約1時間29分:城 二階(?)廊下
 主人公はもと商人のはずですが、そこはそれ、めっぽう強く、その剣術はもっぱら片手で剣を操るというものでした。振りも大きい。
 火矢の連発砲などというものも登場、
『大盗賊』 1963 約1時間29分:城、真下から+投げ落とされた妖婆 他方妖婆の邪眼は、鏡返しの憂き目にあいます。
 めでたく悪漢は滅び、昼間の城の模型が映されるのでした。
 
Cf.,

コロッサス編、『大特撮 日本特撮映画史』、朝日ソノラマ、1980/1985、pp.312-311

日本特撮・幻想映画全集』、1997、p.150
 2014/12/31 以後、随時修正・追補
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