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フランケンシュタインの怒り
The Evil of Frankenstein
    1964年、イギリス 
 監督   フレディ・フランシス 
撮影   ジョン・ウィルコックス 
編集   ジェイムズ・ニーズ 
 美術   ドン・ミンゲイ 
    約1時間26分 
画面比:横×縦    1.85:1 
    カラー 

DVD
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 『フランケンシュタインの逆襲』(1957)と『フランケンシュタインの復讐』(1958)に続くハマー・フィルムによるフランケンシュタインもの第3作です。第2作は第1作の続篇という形でしたが、本作品の物語は独立したものとなっています。『逆襲』でも一度射殺されたはずの怪物が男爵によって蘇生されましたが、その点は本作も同じです。ただしここでは復活までかなり時間があいており、その点で『フランケンシュタイン復活』(1939)を参照しているのかもしれません。
 監督はテレンス・フィッシャーに替わってフレディ・フランシスがつとめました。手もとのソフトに封入された解説によると、「監督も元々はテレンス・フィッシャーだったが、自動車事故で不可能となり、急遽撮影のフレディ・フランシスが担当することになった」とのことです。『回転』(1961)などの撮影で名高いフランシスについては、カメラマンとしては凄腕だけれど監督としては……としばしば見なされるようですが、最盛期のフィッシャー作品のようにしゃきしゃきしたテンポは感じさせないものの、本作品は手堅くまとめられているのではないでしょうか。もっとも怪物のメイクアップはいささか鈍重の感なしとしません。ユニヴァーサルが本作を配給することになっていたため、『逆襲』の時点では流用を禁じられていたデザインが使えるようになったということですが、かつての『フランケンシュタイン』(1931)等から受け継いだ要素という点では、城の実験室の設備の方が成功しているように思われました。
 音楽はドン・ハンクスで、美術はバーナード・ロビンソン抜きでドン・ミンゲイが担当しています。主たる舞台はお城で、部屋数がいささか少なきに過ぎるのは残念ですが、雰囲気を欠いてはいません。村のセットにも面白いところがいくつか見受けられました。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約0分:水辺の森  冒頭は森で、例によって水辺です。
粗末な小屋に安置されていた若者の亡骸が盗まれ、それを目撃した少女がきゃっと叫んで森に駆けだす。駆けて駆けたその先でぶつかったのがピーター・クッシング(カッシング)扮するフランケンシュタイン男爵でした。別に何もしません。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約2分:夜の高台(?)の道  続いて夜、丘の中腹の道が手前から奥へ伸びており、それが画面の右側を占めるのに対し左側はぐっと低くなっていて、下には家屋が一軒、その向こうは川でさらに向こうに山並みが見える。右の道を肩に屍をかついで奥の方へ歩いていく男の背が映っています。この眺めは本作でもう一度登場する他、『凶人ドラキュラ』(1966)にも人物抜きで用いられることになるでしょう(追補:同年の『妖女ゴーゴン』)でも二度再利用されていました)。
 先の小屋とは別の小屋が出てきます。玄関を入って少し先から、半階分下がって実験室が仕立てられている。ガッチャンガッチャンと音が鳴り、色とりどりの液体を容れたフラスコ類が目につきます。これは後の場面での城の実験室より、『フランケンシュタインの逆襲』でのそれに近い。水槽も出てきます。
他方この部屋の特徴といえば、大きな歯車が縦横に組みあわされている点で、ここから元は水車小屋らしいと推察できる。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約8分:歯車の機構
実際すぐ後で、窓の向こうに水車がのぞくのでした。
 実験室の奥の方に凹み状になった空間があり、そこに急角度の黒っぽい木の階段というか梯子に近いものがかけてあります。すぐ左の壁にその影が落ちている。
 しかしこの実験室は先の少女から話を聞いた神父によって破損されてしまう。男爵がここは自分の私有地だといっておりました。とはいえじきに神父に引きつれられた連中が押しかけてくるだろうと、助手のハンス(サンダー・エルス)に促されて二人は逃げだします。ここで先の丘の中腹の道再登場です。今回は奥から手前へ、二人乗りの馬車が進んでくるのでした。


 向かう先は男爵の城があるカールシュタットです。まだ10年もたっていないのにとハンスは危惧を抱きますが、誰も憶えちゃいないさと男爵。実際村に入ると感謝祭で賑わっており、かえってすんなり通り抜けることができる。そしてしばらく進めば城が見えてきます。約13分です。ちなみに城のことは"château"の語を使っていました。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約13分:城、外観  城は高い岩山の上にそびえています。右側には塔があり、縦に稜線が走っているようです。窓はほとんど見えない。丸まった屋根の部分は明るい緑でしょうか。その右に本棟が伸びている。高い屋根の下に3階あり、こちらは多くの窓を設けてあります。そして右の塔よりは低い、しかし少し太めで壁に出入りのある佶屈とした塔が左端を閉じます。この塔には小塔も附属している。また下の方からは低い棟が左に伸びているようです。中央の本棟は明るく黄ばみ、左右の塔はやや暗めです(追補:このマット画も『妖女ゴーゴン』で用いられます。→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。
 馬車は玄関近くに着きます。馬車が進むとともにカメラも左から右へ動く。手前下には欄干が縁取っています。道をはさんで向こう側、左にまず瓦屋根の1階分の棟が映り、少し右で高い棟につながる。高い棟は少し手前にも出っ張っているようです。右に進むとさらに手前へ出て、下に扉口、その上に瓦屋根の平破風がかぶさっています。いったん奥まって、また右に手前へ出た部分が来ます。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約14分:玄関前  次いでカットが換わり、カメラは左下から右上へ動く。先ほどの扉口と同じなのでしょうか、正面奥に扉があり、手前から奥へは左右に欄干のある橋状の道がつながっています。扉には地面から数段あがります。扉口は破風に囲まれているようで、左手、奥まった壁に段差を設けて窓が二つ。右側もすこし下がって伸びていきます。画面右手前には、欄干のこちら側に据えたものでしょうか、犬か何かの石像が少し傾いて大きく映っている(追補:このあたりのセットも『妖女ゴーゴン』で再会できることでしょう)。
 屋内に入ります。昼間なので明るく、グレーの調子が支配的です。画面向かって左が玄関口で、数段おりて床となる。玄関のある壁は右に、少し凹んだ部分を経て窓となります。窓からは木の枝が入りこんでいて、ずいぶん荒れた状態のようです。
 窓の向こうは角となって、右へ曲がる。これが画面正面奥にあたります。まず短い壁があり、その下方に方形の扉口が開いています。その奥に窓の格子の影が落ちている。短い壁の右側は少しあけてから奥を上へのぼる階段となります。階段は途中で踊り場を経て、左に曲がってあがっていく。踊り場突きあたりには窓が設けてあります。
 階段の右端はそのまま玄関間を区切る壁となって手前へ伸びています。この壁のほぼ玄関の向かいにあたる位置に奥への扉口が開いています。なのでこの玄関間もさほど広いわけではありません。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約15分:玄関広間
 玄関の向かいの扉口から奥へ入ると、正面に暖炉がある。ここも奥行きはさほどない。
向かって左側の壁にまた扉口があります。この扉口の左の壁、ということは階段に接した壁の裏側ということになるでしょうか、高い位置に木の半円アーチがあり、アーチの奥は太い柱をはさんで窓が二つ開いている。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約15分:玄関の向かいの部屋、向かって左手
カメラは左から右へパンする。暖炉に対し右の壁は突きあたりでした。この部屋もやはりそんなに広くないようです。
 城の荒廃に苛立ちつつ、男爵は玄関間に戻り、階段の左の扉口へ向かいます。カメラは少し下から見ている。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約15分:玄関広間、玄関から見て左手
 カットが換わるとカメラは扉口の中に移動しています。奥の右から男爵が現われる。男爵からは左、画面正面に別の扉口があり、数段おります。画面の手前、左には柱、右には黒っぽい縦縞があって、扉がこちらに開いている状態なのでしょう。奥の扉口と手前の扉口の間はさして長くもない通路状の空間のようです。左方からぼやっとした光がひろがっています。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約15分:段差のある通路
つなぎの短いカットですが、古城映画的には高得点でしょう。登場人物が立ち止まるべくもない、ある空間から別の空間への経路でしかない。しかし経路であるための空間(と時間)だけは確実に保有している。逆に通り過ぎることしかできないからこそ、そこに空間(と時間)だけが滞留し、それを保証するための分節はなされているとでもいえるでしょうか。しかも光まで射しこんでおり、ということは影もあるわけで、言うことなしです。
 さて、男爵が手前の扉をこちらへ進んだ先は地下室でした。ここが本作での主な舞台をつとめます。画面左側に右下がりの石の階段が見える。けっこう急角度で、金属の手すりつきです。画面上辺沿いには木の梁が縁取りしています。右の方では鎖がぶら下がっていて、この鎖はクライマックスで活躍することでしょう。梁の向こうには曲線をなして下降する柱、右端にも幅広の柱らしきものが見え、部屋の幅はそんなに広くないようです。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約15分:地下の実験室
  1階の暖炉の部屋へ戻ります。半円アーチとその奥の窓との間の壁には、右奥に低い扉があってハンスがそこから酒壜をとりだす。扉は部屋ではなく戸棚のものなのでしょう。また半円アーチの下には、装飾的な木の柱が2本ほど見え、窓状の仕切りになっているようです。暖炉に対し右の壁が突きあたりなのは前にも映りましたが、床と接するところは2~3段あがるようになっています。半円アーチの前にも2~3段あり、壁周辺は床より高くしてあるということのようです。
 ここでハンスに何があったのかと問われて、男爵は「嵐の夜だった」と回想する。
カメラだけがゆっくり前進して男爵の右後ろへ回り、玄関扉を見ながら階段の方へ、さらに階段左の扉の方へ向かっていきます。古城映画しています。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約17分:玄関扉とその左
 ここで約18分です。階段左の扉にわずかにオーヴァラップして、カメラは右下から左上へ動く。地下室兼実験室です。奥の方は手前より数段高くなっており、半円アーチいくつもに囲まれた円形の空間をなしています。一番左のアーチは向こうへ通じているようです。ここも後に重要な位置を占めることになるでしょう。天井には大きな円形の孔が開いています。その右手に天井から、包帯で巻かれた躰が吊してある。水平の金属のベルトが何本も取り巻いています。男爵は歯車を回して垂直の躰を水平にします。どうやらこの時点で作業をしているのは男爵一人だけだとわかります。機械設備がしっかりしていて一人でも何とかなるようにしてあるわけです。この点は後の復活の場面で対比されることでしょう。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約18分:実験室、向かって左手『フランケンシュタインの怒り』 1964 約18分:実験室、向かって右手 奥に出入口
 カメラは上から見下ろす。左手前に半円アーチが縁取っています。段上の部分の右端に、下の床への階段が4段ほどあるのが見えます。画面手前では青い電光が左右をゆるい山状につなぎます。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約19分:実験室+放電、上から
 室内にはガラス管がいくつも上に伸びるのを下でつないだ、いわば心臓状のガラス器具が目を引きます。これは青い光で満たされている。
 はるか上方で天窓が開きます。左側には梯子が見える。天井の中心には水平の節がいくつもある太い円柱のようなものが吊されており、上の方で水平の梯子状の支えによって留められています。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約21分:塔の頂きと避雷針  円に近い多角形でしょうか、塔の頂きが開き、中から太めの避雷針のような装置が出てきて、斜めの体勢をとる。塔頂はまわりに手すりをめぐらせています。
 包帯男の上に水平の電極がおりてきます。左右の縦の電極と先端がほぼ接触する。落雷の電気を伝導して、包帯の躰に生命を吹きこもうとするのでした追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約21分:塔の内側+落雷、下から 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約21分:塔の頂きと避雷針+落雷
このあたりは『フランケンシュタイン』(1931)および『フランケンシュタインの花嫁』(1935)での実験場面の雰囲気をよく再現しているといってよいでしょう。また怪物が初めて動きを見せる時、音楽はなぜかジェイムズ・バーナード風になるのでした。
 実験室の円形段上部が上から見下ろされると、怪物が奥から出てきて上の方を見上げます。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約23分:実験室、上から
これは『フランケンシュタイン』(1931)における怪物登場の場面を念頭に置いているのでしょうか。ただカーロフが演じた光への憧憬までは再現されません(追補:→「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。

 怪物を観察している男爵が下から見上げられます。彼がいるのは中2階のようで、手前に金属の手すりが横に伸び、その前の宙に上から鎖が垂れています。背後すぐに太い水平の梁が走り、その下の天井は斜めになっているようにも見えます。また右奥に扉があるらしい。
 怪物は壁のすみの凹んだ空間を定位置としているようです。男爵がテーブルにかがみこんでノートに何か書きこんでいる背後では、アーチの奥、高い部分に鉄格子をはめた窓が見えます。この窓も後に重要な役割を果たすことでしょう。その右には柱をはさんで低くなった下にやはり半円アーチがあり、中に棚が設置されている。アーチの上では左に斜めの柱があり、右から光が射しています。そのすぐ前の天井に円形の開口部がくるという配置です。
 
 次いで階段の方が映されます。床から右に階段があがり、低い位置の踊り場で曲がる。その上は手前から奥へ伸びます。あがった左に短い中2階があり、金属の手すりがつけてある。すぐ左に太い柱で遮られるのですが、この中2階が先ほど男爵が観察していた位置なのでしょう。中2階の太い柱の右では壁が斜めになっています。柱の左側には上の方に窓があり、その手前にも柱があります。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約27分:実験室の階段側
 この階段のある部分から手前に来れば段差のある部分で、向かって右側にのぼり段があることになる。怪物のいるすみっこはのぼり段をあがって、階段側から見れば左側に当たる。先ほどちらりと見えた鉄格子の窓が、すみの上方で斜めになっていることもわかります。
 中2階の下は少し凹んで寝床になっており、男爵はここから左に回って段上へあがります。カメラの前を横切ってすみの方へ向かうさまが1カットでとらえられる。すると怪物の姿が見えません。

 怪物を追って男爵は明るい林を探します。点々と羊の死骸が残されている。警官と村人もやってくる。怪物は崖の上にのぼりますが、撃たれて向こう側へ転落するのでした。ここまでで約28分です。

 正体が発覚した男爵はハンスとともに村のすぐ前にある高い山に逃れます。上の方は岩だらけで凹みだらけです。雨が降りだすと、村にいた物乞いの娘(キャティ・ワイルド)が手招きして洞穴に入れてくれます。休んでいた男爵は奥から響いてくる音を聞きつけて、洞窟の奥へ進むと、氷河に閉じこめられた怪物を見出すのでした。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約45分:夜の城+稲妻  右で稲妻が光る夜の城の外観をはさんで、実験室、また外観で雷鳴に加えて雨が降りだします。
運びこんだ怪物の鉄枠にコードを結びつけるところが上から見下ろされる。長い間使わないでいたため、前回のように自動操作ともいかず今回はハンスと二人がかりです。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約47分:屋上ないしバルコニー ハンスは梯子で屋上にあがります。屋上というか塔の下にあたるバルコニーで、ここに配された歯車を操作すれば、塔頂の避雷針が出てくるという次第です。さらに上への梯子も見えます。
 再生させるのには成功したものの、意識が戻らない。そこで村の祭りで巡業していた催眠術師ゾルタン(ピーター・ウッドソープ)の助けを借りることになります。怪物のメイクアップはもう一つと先に記しましたが、ゾルタンが施術する際、かなり暗いアップにランプの強い光があてられ、また暗くなるところはなかなか雰囲気がありました。
 かくして約54分、怪物が甦ります。暴れそうになって急いで麻酔を打った後、ゾルタンが日本語字幕で「苦しそうだ」と言えば、男爵は「脳の傷が痛むんだ」、ゾルタン「彼はこのままか」、男爵「数時間眠るだろう」という会話になります。

 昔TVで見て以来、本作品での男爵は比較的温厚な性格に描かれているとずっと思っていたのですが、今回あらためて見直してみればそう単純ではなさそうなのでした。確かに『フランケンシュタインの逆襲』(1957)や『フランケンシュタイン 恐怖の生体実験』(1969)におけるような問答無用の極悪非道ではありません。あるいは『フランケンシュタインと地獄の怪物』(1973)でのように、一見患者のことを気遣っているように見えながら実は自分の実験のことしか考えていないというのでもない。とはいえ、上に記した会話からうかがわれるのは、男爵が怪物に対してけっこう冷たいという感触です。第1次創造時も観察に終始していました。
 また冒頭の水車小屋のエピソードや回想が終わった際、皆が自分の研究の邪魔をする、でもきっと完成させてみせるという台詞がくりかえされ、研究への執念がルサンチマンとない交ぜになっており、ある種妄執化しているとの感なしとはしませんでした。洞窟に招き入れられた際、先後は逆ですがパンを差しだした娘にハンスが礼を言ったのに対し、男爵は無言で受けとっていました。ただし好意的に解釈すれば、娘が耳が不自由なことを即座に見てとったからだと解することもできなくはない。とまれ後で触れるクライマックスの場面での振舞も含めて、温厚との形容が素直にあてはまるものではなさそうです。
 また面白いのは、日本語字幕による上の会話だけとれば、ゾルタンの方がむしろ怪物に同情を寄せているようにも見える点です。もっとも男爵の台詞の後すぐにゾルタンはこっそりほくそ笑んだりするのですが。ともあれ男爵に勧誘された際に見せたおのが催眠術の能力に対するプライドの高さ、そして実際それに伴なっていた実力や後の場面でのうろたえなどもあわせて、意外と興味深い悪役ぶりでした。


 実験室の階段下に据えられた寝床は、前にカーテンを引いて娘の居場所になっています。耳が不自由で言葉も発することのできない娘にとって、氷の中で眠っていた怪物は唯一の友人でした。ハンスの怪物に対する態度が描かれていないこともあって、以後も怪物に対し親身に接するのは彼女だけとなります。
 他方覚醒後も怪物を従わせることのできるのはゾルタンだけとあって、城に居座った彼は酒のにおいをまき散らしながら怪物のいるすみへ行きます。怪物のいる奥から見ると、手前左右がすぐ壁で、その向こうに低い水平の梁、そのまた向こうで半円アーチの上が切れている。さらに向こう、天井から釣り鐘状の装置が下がっている。その底面に大きな円孔が開いています。その向こうにも半円アーチが見えます。


 ゾルタンに命じられて怪物は村から金製品を奪ってくる。この時怪物が入っていく戸口や、怪物を目撃する村人がつまみ出された酒場の前面も面白いセットでしたが、
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間1分:村の教会 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間1分:村の酒場
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間2分:村の通り+怪物の胸に金の十字架 それはおくとして、人気のない夜道を歩く怪物が斜めになった大きな金の十字架を抱きかかえるさまは、十字架がいかに喚起力のある形象かをうかがわせるに足るものでした。十字架が光を反射してきらきらします。
 ところで怪物は城に戻った時、別の扉口から入ってきます。画面手前には手術台の鉄枠があり、その向こうで椅子に坐ったゾルタンがうつらうつらしている。次いで机、手すりと続き、さらにその向こうは低くなっているようです。突きあたりの上には右下がりの階段がちらっとのぞき、すぐに踊り場が右へ伸びている。その下に扉があって、そこから怪物は出てきます。扉の向こうはさらに低くなっているようにも見えます。怪物は右へ進む。物音に気づいたゾルタンは左から右へ、段差の階段をおりるところが上から見下ろされます。段をおりたその左奥から怪物が出てくる。残念ながらこの通路がどこを通り、どこへ出るのかは映されません。
 また少し後、男爵に呼ばれたハンスは、玄関広間の階段を上からおりてきます。後にも同じように上からおりてきていて、普段の居室を上の階に定めたことがわかります。しかしこちらも残念ながら、上の階がどうなっているのかは描かれない。
 さてまたのお出かけで怪物は、地下研究室の段上にあがる数段の階段の右にある扉口から出ていきます。これは上階からの階段下の向かいにあたるので、前に入ってきた時にちらっと見えた階段は別にあるようです。扉口の向こうには石の壁がのぞいている。

 ゾルタンは自分を村から追放しようとした村長と警察署長を懲らしめろと怪物に命じたのでした。怪物が村長宅に押し入った時、眠りこんでいたゾルタンはうなされます。もどってきた怪物の手についた血を見てゾルタンは狼狽し、自分は罰を与えろと言ったんだ、殺せとは言ってないと口にする。
 そのさまを見た男爵はゾルタンに出て行けと叫びます。
その際玄関扉の右手に、壁から離れて手前に出た円柱が目に入ります。その右にアーチがくる。円柱の上の方は捻り柱とまではいきませんが、螺旋状の刻み目が入っています。すぐ後に玄関の左手にも同じ円柱があり、下の方にも螺旋の刻みが施されているのが見えます追補:→「捻れ柱 - 怪奇城の意匠より」の頁も参照)。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間11分:玄関広間、実験室への通路の入口
 追いだされたゾルタンはしかし、怪物のいるすみの上にある斜め窓から鉄格子をはずせと命じるのでした。斜め窓はこの場面のために設けられたのでしょう。怪物は床に落ちた鉄格子1本を手に、男爵に迫ります。場面は暖炉の部屋です。男爵はすぐ後ろのテーブルを背回りで怪物とテーブルをはさむ位置に逃れる。クッシングお得意のあざやかな動きでした。ランプの笠をはずして火勢を強め、怪物に向ける。先の回想場面の中で怪物が火に手を伸ばして痛い目にあったことが語られていました。後ずさりする怪物を見て駆けつけたゾルタンはにんまりします。自分の催眠能力に絶対の自信を持っていたのでしょう、男爵を殺せと命令する。結果を予測した男爵が止めろと叫ぶ。命令と火への怖れの板挟みになった怪物は振り向きざまにゾルタンに槍状の鉄格子を突き立てるのでした。ゾルタンが倒れると横から男爵の頭部がアップで入ってきます。
目をやれば玄関を出て行く怪物が下から見上げられる。日が暮れたのでしょう、陰影が濃い。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間14分:玄関
 いったん研究室へおりて麻酔薬をとってきた男爵が怪物を追おうとすると、ゾルタンの死体を前にした警察署長(ダンカン・ラモント)に逮捕されます。男爵は「村が危ない」と叫ぶ。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間14分:実験室への通路
 ハンスは山の洞穴で怪物と彼の手当をする娘を見つけます。一行は山道を城へ戻りますが、娘が転ぶとハンスを遮って怪物が彼女を抱きあげる。泣かせる場面でした。
 一方怪物の存在を確認した署長は村の面々とともに山狩りすべく森の道を歩いています。そこへ脱獄した男爵が盗んだ馬車で駆け抜ける。一行は駆けだすのでした。
 城では怪物が頭痛に苦しんでいます。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間20分:実験室、奥の左手
痛みを和らげようと娘は酒を飲ませる。いったん払いのけた怪物ですが、口に残った味に誘われて酒壜を探そうと暴れます。器具に火がつきあちこちで炎が上がる。駆けつけた男爵は娘を外に出してから止めようとしますがいかんともしがたい。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間22分:玄関広間、階段の上から 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間23分:実験室の階段
とこうする内に炎はひろがり、階段上の扉周辺が崩れてしまいます。
外から扉を開けようとハンスが呼びかければ、娘と外へ出ろと男爵が叫び返します。 『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間25分:実験室への通路
 扉から出られそうにないと見た男爵は、上から垂れさがっている鎖につかまり、ターザンよろしく下の段上前に飛び降りる。これは『フランケンシュタイン復活』のクライマックスが参照されたのでしょうか。目的は異なっていますが、クッシングがやると説得力があります。すぐ右の扉口から出ようとするも、こちらも炎に包まれてしまいます。

 さて、昔TVで見て以来、クライマックスで男爵は自分を犠牲にして若い二人を逃したのだと思いこんでいましたが、今回あらためて見直してみればニュアンスが違っていたようです。たしかに二人に逃げろと叫びつつ、自分も逃げだす努力を続けていました。それだけに下の扉口から出られないことを悟った時の表情は絶望に浸されたように感じられます。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間25分:黒煙を吹きだす城  署長と村人たちが上から見下ろされたのに続いて、煙を吹く城が映しだされます。その前を手前へハンスと娘が駈けおりてくる。ちゃんと合成しているのがうれしいところです。考えてみればハマー・フィルムの作品で、城の全景と人物の合成はあまり見かけなかったかもしれません。また右の塔の上に斜めになった避雷針が見えるのも、前の全景と違っていました。実験室の円形段上は塔の真下にあったわけです。
『フランケンシュタインの怒り』 1964 約1時間25分:爆発炎上する塔 そして塔は爆発し、炎上する。
娘を抱きかかえながらハンスが日本語字幕で「男爵の負けだ」ともっともらしくつぶやき、終幕となるのでした。
 
Cf.,

石田一編著、『ハマー・ホラー伝説』、1995、p.171。

石川三登志、『吸血鬼だらけの宇宙船』、1977、「三人の恐怖映画作家〈フィッシャー、キャッスル、フランシス〉」の内 pp.167-169 など

Peter Hutchings, Hammer and Beyond. The British Horror Film, 1993, pp.107-108

David Miller, Peter Cushing. A Life in Film, 2000/2013, pp.99-101

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.103-105
 2015/2/13 以後、随時修正・追補
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