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吸血鬼
Dance of the Vampires *
    1967年、イギリス・USA 
 監督   ロマン・ポランスキー 
 撮影   ダグラス・スローカム 
編集   アラステア・マッキンタイア 
 プロダクション・デザイン   ウィルフレッド・シングルトン 
 美術   フレッド・カーター 
    約1時間48分 
画面比:横×縦    2.35:1 **
    カラー 

VHS
* イギリスでのタイトル。手もとのソフトでは
The Fearless Vampire Killers。こちらはUSAでのタイトル。[ IMDb ]によると The Fearless Vampire Killers or: Pardon Me, But Your Teeth Are in My Neck というのもあるとのこと。
** 手もとのソフトでは 1.33:1
………………………

 『反撥』(1965)、『袋小路』(1966)に続くポランスキーのイギリスでの3作目の作品ですが、上にも記したように手もとのソフトでは画面の左右は半分近くトリミングされており、この映画を見たとはとても言えたものではありません。きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

 「ブラム・ストーカーの吸血鬼小説を私は読んだことがなく、芝居も見たことはないが、私は吸血鬼の映画をたくさん見た。実際に、英国のこの種の恐怖映画を見るのは私の楽しみだった。パリに住んでいた頃、私の友人たちと私は恐怖映画を一本も見落とさなかった。だが、怖いのはほんのチョッピリで、みな笑って見ていた。そこで私は考えた。わざと滑稽な怪奇映画を作ったらどうだろうか」
とのことで(下掲『世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、1971、p.195)、『凸凹フランケンシュタインの巻』(1948)の場合同様、こうしたパロディーに対する好悪はあるかと思いますが - ポランスキー自身は
「私の意図は決してパロディを作るということではなかった。私のアイデアはお伽話を作ることにあった」
と述べています(同上) -、それはさておき、本作における古城のセットはかなり高得点です。複数の廊下、複数の階段、2つの螺旋階段、中庭とそれをめぐる回廊、あまつさえ城壁の上、屋根の上を登場人物たちが往き来し、走り回ってくれます。『凸凹フランケンシュタインの巻』の場合同様、古城映画に関心があればけっこう楽しめるのではないでしょうか。

 実質的な主役はポランスキー自身が演じています。彼が助手として仕えるアブロンシウス教授役のジャック・マッゴーランは『袋小路』からの続投です。伯爵の息子役のイエン・カリエも同様。ヒロインをつとめたシャロン・テイトがこの後ポランスキーと結婚し、しかしチャールズ・マンソンによる惨殺事件の犠牲者となったことはよく知られていましょう。
 プロダクション・デザインのウィルフリッド・シングルトンことウィルフレッド・シングルトンにはすでに『回転』(1961)で出会いました。『マクベス』(1971)でも再会できることでしょう。音楽は『水の中のナイフ』(1962)、『袋小路』に続いてクリストファー・コメダが担当、後の『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)でのそれにも通じると見なせなくもない主題曲を聞かせてくれます。撮影のダグラス・スローカムはハマー・フィルムのサスペンス・スリラー『恐怖』(1961、監督:セス・ホルト、クリストファー・リーが出演)や、ダーク・ボガード主演の怪作『召使』(1963、監督:ジョゼフ・ロージー)を手がけており、後には『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981、監督:スティーヴン・スピルバーグ)をはじめとするインディー・ジョーンズ三部作など、けっこうメジャーな作品でカメラをとることになるでしょう。

 MGMことメトロ=ゴールドウィン=メイヤー社のシンボルであるライオンがアニメーションの吸血鬼に変わるという有名な冒頭から始まります。吸血鬼の牙から明るい赤の血が滴り落ち、それとともに下降する水色のもやもやにクレジットが記されていく。コーラスによる主題曲は哀感と荘厳さを兼ね備えています。血の滴はやがて蝙蝠に姿を変え、飛び交うのでした。
 本篇が始まると一面の雪景色です。満月が皓々と照っている。トランシルヴァニアとのことです。リンリンと鈴を鳴らしながら馬車が雪の山道を走ります。狼の遠吠えが響き、次いで実物が追っかけてきます。
 馬車は村の宿屋に到着します。ここが本篇三分の一ほどの舞台となる。馬車からおりた教授は凍ってカチカチになっており、それをお湯で溶かします。宿屋の1階は食堂ですが、いたるところにニンニクの束が吊ってあります。
 教授と助手のアルフレッド(ポランスキー)は宿屋の亭主(アルフィー・バス)に案内されて2階の部屋に通されます。後にヨイネ・シャガールという名であることがわかるこの亭主は、この後も大活躍することでしょう。
 2階の廊下は幅が狭く、左側で天井から床まで太い梁が斜めに支えています。 『吸血鬼』 1967 約8分:宿屋の二階廊下
室内も右の壁が斜めになっている。奥で浴室につながっており、扉を開くと亭主の娘で赤毛のサラ(シャロン・テイト)が入浴中でした。
 廊下は奥で段差があり、その向こうに梯子に近い急な木の階段が天井にあがっています。上には金髪のメイド(フィオナ・ルイス)の部屋がある。亭主は彼女に粉をかけています。

 翌日、城の使用人であるせむしの男(テリー・ダウンズ)が物品を取りに宿屋を訪れます。後に名がクーコルと知れる彼もこの後活躍することでしょう。彼が姿を見せるとメイドはテーブルの下に身を隠します。教授に命じられて助手は後をつけますが、雪原でそりから落ちてしまう。
 サラは寄宿学校時代に大の風呂好きになり、宿屋にはここしか風呂がないのでしょうか、サラに気のある助手に頼んで浴室を使わせてもらいます。
 クーコルがそりを村の方へ走らせます。そりの後部座席には男が乗っている。
 浴室の天窓を破って男-フォン・クロロック伯爵(ファーディ・メイン)がゆっくり下降します。風呂の中で身をすくめるサラの首に、牙を剥きだして咬みつく。パーカッションを背景に無調のコーラスが響きます。ロバの鳴き声のような効果音付きでした。

 亭主はニンニクをかじって出かけますが、翌朝凍りついた姿で発見される。手首に2つの咬み跡、さらにすねや腹にも跡が残っていました。教授は宿の女将に杭打ちを示唆しますが、女将は拒否します。杭打ちという方法は知られていなかったということなのでしょうか。
 甦った亭主は床の揚げ蓋から地下におります。地下は酒蔵でした。教授と助手を振り切った亭主は、3階のメイドの部屋に窓から侵入します。メイドが壁にかかっていた十字架を突きつけますが、「俺には効かないんだよ」とうそぶく。亭主はユダヤ人なのでした。少なくとも日本語字幕ではこれはわからない。なおポランスキー自身も父親がユダヤ人とのことです。

 雪原を逃げる亭主を、教授と助手がスキーで追います。
『吸血鬼』 1967 約37分:城の外観 かくして約37分、向こうに城が見えてくる。手前には斜面が横切り、黒く木々が縁取っています。その向こうをうねる道の先、丘の上の城は暗褐色の壁に、いくつもの尖り屋根だけが雪で白く覆われている。道の先に方形のやや低い棟、すぐ右に円塔、後ろに高い棟がそびえています。左右にも少し間を置いて塔が立っていいる。奥の方に山並みが見えます。
 半円アーチの門の前には橋がかかっている。すぐ左にも小さめの半円アーチが並んでいる追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。
 助手が柵のついた壁によじ登ろうとしますが、その下に格子のはまった扉が雪に半ば埋もれており、教授はそこをさっさとくぐります。
 中に入るといったん真っ暗になる。粗石を積んだ壁から幅の広い梁が迫りだしており、下には半円アーチが3つ並んでいる。アーチの奥はすぐに壁です。
 左手にのぼり階段、手前は墓石でいっぱいの中庭です。階段と壁の間に円柱が2本たっており、そこから中に入る。少し奥に扉があり、その先は廊下でした。壁は粗石積みです。右には上へ10段ほどの階段があり、扉に通じている。扉の向こうは狭い部屋で、奥の壁高くに小さな窓が設けられています。少しすると扉からクーコルが入ってきて助手の尻を蹴飛ばす。
 クーコルに案内され、扉から出て階段をおりる。円柱の並ぶ廊下を進みます。右は中庭でしょうか。
廊下の奥で階段をのぼります。 『吸血鬼』 1967 約41分:中庭沿いの歩廊から広間方面への階段、上から
周囲には肖像画がたくさんかかっており、古典をネタにしているようですが、顔の部分だけ不気味げに誇張されています(追補:→「怪奇城の画廊(前篇)」や「怪奇城の画廊(中篇)」の頁でも少し触れました)。 『吸血鬼』 1967 約42分:肖像画の廊下
廊下を奥へ、また階段をおり、右の扉に入る。経路を辿る過程がたまりません。 『吸血鬼』 1967 約42分:肖像画の廊下から右下の広間への階段、上から
 居間でしょうか、左の壁に暖炉、その右に長テーブル、突きあたりの壁には壁画が描かれていました。暖炉は蜘蛛の巣だらけです。長テーブルの前の椅子に背を向けて伯爵が坐っている。 『吸血鬼』 1967 約42分:広間
自己紹介した教授に、伯爵は著書を読んだことがあるという。絶讃します。日本語字幕では書名は『コウモリ その神秘』とのことです。教授はもともと生物学者だったのか、あるいは歴史家なのでしょうか。
 居間の奥の扉の向こうは、間の小部屋をはさんで書斎となります(追補:→「怪奇城の図書室」の頁でも触れました)。 『吸血鬼』 1967 約45分:広間から小部屋をはさんで奥の図書室へ
クーコルの名が明かされる。彼は口がきけないようです。教授たちの部屋の準備ができたとのことで、小部屋から右へ進む。
階段をのぼります。 『吸血鬼』 1967 約47分:二階への階段
のぼった上で折れ、やや幅の狭い廊下が伸びています。けっこう長い。天井は横にアーチで区切られています。途中で左の扉から美青年が顔を出す。息子のハーバートでした(イエン・カリエ、[ IMDb ]によると声はヴラデク・シェイバルとのこと)。彼は助手に興味を示したようです。 『吸血鬼』 1967 約48分:二階(?)廊下 奥は昇ってきた階段側
 教授と助手は廊下の奥、二部屋を当てられる。廊下はさらに奥へ少し続き、左に上りの階段がのぞいています。室内はやはり蜘蛛の巣だらけで、それぞれ肖像画がかかっています。
追補:助手の部屋の扉にはタルシーア(木象嵌)による街景図を思わせる建築図が嵌め込まれていました。部屋側だけでなく廊下側にも飾ってあったようです。→こちら(「寄木細工…」の頁)を参照。また「怪奇城の画廊(中篇)」の頁でも触れました)。  『吸血鬼』 1967 約51分:助手の部屋の扉にタルシーア風建築図の装飾
 女の歌声を耳にして助手が廊下を奥へ進みかける。 『吸血鬼』 1967 約52分:二階廊下 奥左に上り階段
しかしすぐに戻り、扉を閉じると上向きのカメラが廊下の天井のアーチを右から左に撫で、左下へ、格子窓の下を見下ろします。伯爵とクーコルが納骨堂へ入っていきました。中には息子もいます。納骨堂の入口は馬蹄形アーチで、のぼり数段、少し間を置いてまたのぼりが数段、そして回廊につながっている。
 宿の亭主も自ら柩をもって入ってきますが、クーコルに柩ごと引きずられ、外で曲がり、10数段の下り階段を滑り落とされてしまいます。下は厩でした。ぶつくさ言っています。 『吸血鬼』 1967 約53分:厩への階段、下から
 カメラは右へ、奥に外への窓があります。別の窓に切り替わり、カメラが左へ動くと助手のベッドでした。目覚めるとクーコルの顔がのぞいています。朝食を持ってきたのです。扉には内側からバリケードを築いてあったのですが。

 教授と助手は中庭に面した回廊を奥へ進みます。
『吸血鬼』 1967 約59分:中庭沿い歩廊『吸血鬼』 1967 約58分:中庭沿い歩廊 奥が広間方面への階段
10段ほどの階段をのぼって扉の中をのぞくと、クーコルが柩を作っている。
『吸血鬼』 1967 約1時間0分:中庭 右に納骨堂入口、その左に階段 左は広間  尖頭アーチの並ぶ回廊を戻ります。中庭の向こう、右手に数段おりて扉が見える。入口には上に破風がついています。その左、山型アーチの下で5段ほど上ると踊り場になり、階段が左にのぼっている。さらにその左は斜めの梁がついた壁でした。
破風のある扉の方へ向かおうとすると、クーコルが出てきて通せんぼします。彼のいた階段上の部屋は、そのすぐ右にあたるのでした。 『吸血鬼』 1967 約1時間1分:中庭 左に納骨堂入口、その右上に柩の制作室
 教授と助手は回廊の反対側に戻ります。突きあたりに左上への階段が7~8段上り、その上は横へ欄干が伸びています。その向こうでまた右上へ7~8段上り、折れて左上へ7~8段上る。そして奥への廊下に続くということのようでした。 『吸血鬼』 1967 約1時間1分:中庭 左奥に広間方面への階段
 居間を通りぬけて奥の扉の向こうには、右上がりの階段が見えます。
二人はそこをのぼったのか、粗石積みの壁の暗い廊下に出ます。左に窓が開いている。 『吸血鬼』 1967 約1時間1分:狭い廊下
『吸血鬼』 1967 約1時間2分:屋上 右の窓が狭い廊下から そこを出て、庇を伝い、左へ進みます。飛び梁伝いに手前の屋上まで来る。何本も装飾的な柱が立っています。捻り柱もある(追補:→「捻れ柱 - 怪奇城の意匠より」の頁も参照)。
屋上の手前からは城門の前を見下ろせます
『吸血鬼』 1967 約1時間3分:屋上から見下ろした城壁の袋小路 追補:城門前以外にもう一箇所見下ろされたのが、不規則に折れ曲がった袋小路のようなところでした。入口に柵がしてありますが、どういった場所なのでしょうか)。 
『吸血鬼』 1967 約1時間3分:屋上 中央奥に納骨堂  城壁の鋸歯型胸壁を伝った先には、ひしゃげたような尖り屋根をいただいた、多角形の塔がありました(追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁や、「怪奇城の高い所(完結篇) - 屋上と城壁上歩廊など」の頁でも触れました)。
その上部に開いた小さな窓から助手が滑りこみます。しかし教授はつかえて通りぬけられません。痩せているように見えるのですが。とまれ中は納骨堂でした。
 台の上に柩が2つのせてあります。教授に命じられてこわごわ開くと、1つには伯爵、もう一つには息子、そして足もとにちゃっかり宿の亭主がもぐりこんでいました。杭を心臓に打つよう教授は命じますが、助手にはできません。詮方なく裏に回って自分を引っ張りだしてくれと言う。
 助手は居間を抜けて2階の廊下に出ます。すると女の歌声が聞こえてくる。廊下を戻ります。 『吸血鬼』 1967 約1時間10分:狭い廊下 左の窓の奥に見えるのは二階廊下
自分の部屋の前を通り過ぎ、廊下をさらに手前まで来る。 左側の部屋に入り、奥に進むと左手に浴室があり、サラがいました。首に牙跡をつけています。キスをする。真夜中に舞踏会が開かれるとのことです。
 助手が曇った窓にハート・マークを書いていると、向こうにつっかえた教授が見えます。サラの姿は消えていました。急いで鋸歯型胸壁伝いに戻り、引っ張りだすと教授はカチコチです。対吸血鬼用道具一式を入れた鞄を谷底に落としてしまう。
 書斎の片隅に鉄の螺旋階段が取りつけられています。『たたり』(1963)が思い浮かばずにはいませんが、あれほど高くはない追補:→「怪奇城の図書室」の頁でも触れました。 『吸血鬼』 1967 約1時間16分:図書室の螺旋階段、下から
二人で階段をあがると、上に部屋がありました。望遠鏡類が置いてあります追補:→「怪奇城の高い所(中篇) - 三階以上など」の頁でも触れました)。望遠鏡から土星が見える。望遠鏡をめぐらせると、宿の亭主がメイドの部屋に忍びいっているのも映ります。

 助手は居間からサラがいた部屋に戻ります。浴槽にお湯を足していたのは伯爵の息子でした。シャツ一枚で、下には何もはいていないようです。息子と助手はベッドに並んで坐る。向かいの鏡を見ると、息子の姿だけ映っていません。息子はもったいぶった口調で、助手が手にしていた恋の指南書の一節をなぞります。そして助手の首に牙を剥くのでした。助手はとっさに指南書を息子の口にくわえさせ、逃げだします。
 約1時間21分、本篇の山場の1つです。
助手は廊下を奥へ走る。 『吸血鬼』 1967 約1時間21分:二階廊下
曲がって今度は暗い廊下を手前に進みます。廊下の奥には右へののぼり階段がのぞいている。 『吸血鬼』 1967 約1時間21分:二階廊下
手前を右に折れると、牙に刺さった指南書をはずした息子が追ってきて、勢い余ってそのまま回廊の柱にぐるりとつかまります。柱はダイヤ連ね型です。
『吸血鬼』 1967 約1時間22分:中庭を囲む二階回廊  回廊の向こう、一段低くなって中庭の上方をめぐる木造の廊下が伸びています。屋根付きです。手間から奥へ、奥で左から右へ、そしてまた手前へと続いている。奥の下にはアーチ越しで右下がりの階段が見える。カメラが左から右へパンするとともに、助手は手前から奥へ、奥を右へ、右端から手前へ疾走してくる。
数段のぼって元の位置に戻ると、待っていた息子と鉢合わせするのでした。右の壁は粗石積みです。なお中庭をめぐる屋根付き2階木造回廊には、『マクベス』で再会できることでしょう(追補:→「怪奇城の廊下」の頁や、「怪奇城の高い所(完結篇) - 屋上と城壁上歩廊など」の頁でも触れました)。
 取っ組み合いの末、逃げだした助手は廊下から部屋へ、また廊下へ。 『吸血鬼』 1967 約1時間23分:二階廊下
欄干越しに折れる階段、手前にも下り階段のある、中庭に面した回廊に出てくる。 『吸血鬼』 1967 約1時間23分:中庭沿い歩廊から広間方面への階段
廊下の手前左側の扉に入ります。
 中は洞窟状の壁に覆われ、上へと石造の螺旋階段がのぼっていました。教授もいます。 『吸血鬼』 1967 約1時間23分:狭い螺旋階段
階段をあがった先には、鎧を並べた短い廊下を経て、多角形のバルコニーに出ます。大砲が据えつけてある。見下ろすと、下の中庭は柩だらけです。
『吸血鬼』 1967 約1時間25分:バルコニーから見下ろした中庭 『吸血鬼』 1967 約1時間25分:バルコニーから見下ろした墓地
 後ろから伯爵が現われます。教授を勧誘する。助手は息子のパートナーにとのことです。理解のある父親です。
『吸血鬼』 1967 約1時間27分:バルコニーから見下ろした城門附近 城門から馬車が入ってきます。メイドと宿の亭主でした。
 勧誘を断った教授たちを残し、鉄の扉が閉じられます。下の居間からチェンバロの音が聞こえてくる。演奏しているのは息子でした。
 教授は大砲をぐるりと回し、扉に向けます。
 居間では1年ぶりだという集会が開かれていました。客たちの顔は皆蒼白い。彼らはずっと中庭の墓所で眠っていたのでしょうか、それとも他所からやってきたのでしょうか。カーテンを開くと真っ赤なドレスのサラが待機していました。
 教授は砲弾をこめ、まわりの雪もつめこみ、木の扉を壊して火をつけます。成功、鉄の扉ははずれます。
 居間では舞踏会が開かれています。ここにUK版の原題が由来するわけです。下掲の
Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, p.141、また p.99 では、『吸血鬼の接吻』(1963)に由来するものだろうと指摘されています。
 教授たちは屋根伝いに進む。煙突から宿の亭主とメイドの声が聞こえてきます。メイドは黄色いドレスを着ています。教授は煙突から亭主に、そりの準備をするよう命令を下す。
 教授と助手は舞踏会に紛れこみます。 『吸血鬼』 1967 約1時間35分:肖像画の廊下から広間(手前左)への階段
 亭主は倒れたメイドを下へ、 『吸血鬼』 1967 約1時間36分:中庭歩廊から広間方面への階段附近、上から
二人で中庭の墓の1つに潜りこみます。
 教授と助手はサラと接触する。助手はヴェネツィアへ行こうと誘います。気がつくと、大鏡に映っているのは三人だけでした。助手が振りあげた剣に、すかさず教授が別の剣を交えて十字にします。伯爵たちは前へ進めない。教授は十字の剣をそのまま居間の入口に横たえ、逃げだす。その際欄干をひらりと飛び越えます。
 回廊の螺旋階段の扉に入る。今度は下へおりていきます。地下の廊下です。天井に大蝙蝠がとまっている。
坂をあがると梯子段がかかっていました。 『吸血鬼』 1967 約1時間42分:地下通路からの上り梯子
のぼって揚げ蓋を挙げれば、クーコルの大工部屋です。もとの廊下に戻り、手前右の扉に入ります。その間居間の奥から回ってきた吸血鬼たちがわらわらと追ってきます。
『吸血鬼』 1967 約1時間42分:厩への下り階段、上から  扉の先は狭い下り階段でした。露天です。
下にそりが止めてあり、くだり坂の先に尖頭アーチの小門がある
『吸血鬼』 1967 約1時間42分:玄関附近(?) 追補:吸血鬼たちが追ってくる階段の上の扉口は、玄関にあたるのでしょうか。とすると始めて映ったことになります)。
 教授、助手、サラの三人がのったそりが走りだし、伯爵に命じられたクーコルが柩をそり代わりに滑りだす。
 コースを交わらせつつ、勢い余ったクーコルは谷底へ消えるのですが、無事脱出した三人はしかし……ラストの顛末については『怪談呪いの霊魂』(1963)のところでも記しましたが(→こちらを参照)、個人的にはやったもん勝ちの一回こっきりであるべきではないかとも思うものの、あたかも教授「のおかげでこの悪は世界にひろまったのだ」というラストのナレーションをなぞるかのごとく、蔓延することになるのでした。

 
Cf.,

世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、1971、pp.132-133、157、167-168、195-197、237-238

 また pp.201-224:「シナリオ吸血鬼」(ロマン・ポランスキー、ジェラード・ブラック 採録・日野康一)

 →こちらも参照(『袋小路』(1966)の頁の CF.)


 手もとのVHSソフト封入のリーフレットには解説として

日野康一、「ポランスキーの吸血鬼映画」

 が掲載


The Horror Movies, 4、1986、pp.152-153

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.147-148/no.101

友成純一、『暴力/猟奇/名画座』、洋泉社、2000、pp.157-172:「第7章 地獄はこの世にある-ロマン・ポランスキー」

 同書から→こちら(『バーバレラ』の頁の Cf.)でも挙げています

 同じ著者に関連して→そちらも挙げています(「近代など(20世紀~) Ⅵ」の頁の友成純一の項)

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, p.141

 ちなみに

赤川次郎、『吸血鬼はお年ごろ』(集英社文庫 コバルト・シリーズ 花 68-C)、集英社、1981

に始まるシリーズ(ずいぶん巻数が出ているはずですが、不詳)でヒロインの父親フォン・クロロックの名は、本作に由来するのでしょう。
 同じ著者による→こちらを参照(『血とバラ』(1960)の頁の「おまけ」)


おまけ

 再見したDVDには映像特典として、10分強の「吸血鬼講座」が収録されていました。どういったものなのかは記されていないのですが、『吸血鬼』の予告篇が組みこまれていた点からして、本篇公開に際して制作されたものと推測できます。[ IMDb ]で脚本・監督の Michael Mindlin Jr. を検索してみると、

The Fearless Vampire Killers: Vampires 101 , 1967

として載っていました。 
 それはともかく、この短篇の最初と最後に、「講師」が棲む家ということなのでしょうか、お屋敷が映されます。このマット画がなぜか、ロジャー・コーマンの「人妻を眠らす妖術」(1962)で用いられたものなのでした→こちらを参照  『吸血鬼』(1967)DVD収録「吸血鬼講座」(1967) 約0分:「人妻を眠らす妖術」(1962)の屋敷
 2015/11/13 以後、随時修正・追補
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