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『Meigaを探せ!』より、他・出張所
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| 『白蛇伝説』(1988)は、ケン・ラッセルお得意の下品なまでのあざとさをまぶした、喜劇調(あまり弾けないけれど)の怪奇映画です。原作はブラム・ストーカーの邦訳されていない『白蛇の巣』ですが、忠実な翻案ではないという。スコットランドのどこぞの村だか町だかが舞台です。ただし村なり町なりは画面に映りません。ともあれ、かつてこの地では巨大な白蛇が巣くっていたが、ジョン・ダンプトンによって退治されたという伝説が残っています。劇中で「ダンプトン・ワーム D'Ampton Worm」なるフォーク・ロックも披露される(約5~7分)。物語は、主人公の考古学を学ぶアンガス・フリント(ピーター・キャパルディ)が中世の修道院址を発掘していたところ、ローマ時代の地層で巨大な蛇の頭骨を発見する場面から始まります。 | |||
| さて、現在のジェイムズ・ダンプトン卿(ヒュー・グラント)の屋敷の寝室には、白蛇退治を描いた絵が飾ってありました(右)。これはあきらかに、ウッチェッロの《聖ゲオルギウスと竜》を改変したものでしょう。『A-ko The ヴァーサス』(1990)・メモの頁で触れたように (→こちら)、ウッチェッロのこの主題の作品にはいくつか変奏があるのですが、騎士の下げた頭部や、斜めに見られた馬の体勢など、ロンドンのヴァージョン(下左)に基づくものと思われます。背景の岩山も、洞穴開口部のへりがぎざぎざしている点、パリ版(下右)よりはロンドン版に近い。 | ![]() |
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![]() パオロ・ウッチェッロ(1397-1475) 《聖ゲオルギウスと竜》 1470頃* |
![]() ウッチェッロ 《竜を打ち倒す聖ゲオルギウス》 1430-35頃* |
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| *画像の上でクリックすると、拡大画像とデータの頁にリンクします。 | |||
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| 夢の中で、絵から騎士と白蛇の姿が消え、洞穴にダンプトン卿が入っていきます(上左)。この洞穴と岩山は、ウッチェッロの絵と同時に、映画の冒頭、オープニング・クレジットの背景に映っていた、岩山と洞穴の眺めにも合わせてあります(上右)。ウッチェッロの絵における騎士と竜の位置を左右反転したのは、そのためなのでしょうか。 とまれ、{ IMDb }の該当頁(→そちら)中の"Filming locations"によると、ストラトフォードシャー州のトールの洞窟 Thor's Cave, Manifold Valley, Staffordshireで撮影されたとのことです(英語版ウィキペディアの該当頁→そちらの2)。劇中ではストーンリッグ洞窟 Stonerigg Cavern と呼ばれ、その内部も映されます(下1段目左右)。ずいぶん印象的な眺めでした。 |
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| またダンプトン卿の館(上2段目左)はハートフォーソシャー州のネブワース・ハウス Knebworth House, Knebworth, Hertfordshire がロケ先だそうです(日本語版ウィキペディアの該当頁→そちらの3)。屋内(上2段目右)も同じ屋敷で撮影されたのでしょうか? 大きな家族肖像画らしきものをはじめとして、何点も絵がかかっています。おそらく実際にあるものなのでしょうが、今のところ委細は不明です。 | |||
| ダンプトン館の近くにあるという、通称「神殿の家 Temple House, Temple Mansion」ことレディ・シルヴィア・マーシュ(アマンダ・ドノホー)の館、その居間らしき部屋では(右)、暖炉の上に、インド風の神像でしょうか、大きな絵が見えますが、これも細かいところまではわかりませんでした。 | ![]() |
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![]() 他方、暖炉の右手にある衝立は、その一部がアップになります(上)。いろいろな絵が貼りあわせてあるようですが、中央の少女の絵は、第一期ラファエル前派のジョン・エヴァレット・ミレイの《チェリー・ライプ》でした(右)。この作品は色刷り石版画化されて人気を博したとのことで、ここで映っているのもそうしたヴァージョンかもしれません。 「神殿の家」(下左)のロケ先は記されていませんでした。実在するのか、セットの張りぼてなのか? また屋内はセットなのか、別の建物なのか、ともあれたとえば、踊り場に大きな壺を置いた階段の下にある、大きな円形の風呂など(下右)、いくつか興味深い空間が登場します。 |
![]() ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-1896) 《チェリー・ライプ》 1879 油彩・カンヴァス 134.6 x 88.9cm 個人蔵 Cf., 『ジョン・エヴァレット・ミレイ展』図録、北九州市立美術館、Bunkamura ザ・ミュージアム、2008、pp.16-17 / figs.3-4 荒川裕子、『ジョン・エヴァレット・ミレイ ヴィクトリア朝 美の革新者』(ToBi selection)、東京美術、2015、pp.152-153 |
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| 前庭になりますが、下り階段があって(右)、その先は一段低くなった地下室のまわりを巡っているのでしょう(下左右)、いわゆる〈 |
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| 「神殿の家」の屋内に戻ると、ファサードからは見えませんが、屋敷の中枢ということなのでしょうか、ガラスのドームをいただく吹抜が設けられ、ドームのすぐ下は円形の通路(右1段目)、その下には半円アーチが並ぶ方形通路(右2段目)が巡っています。双方白大理石製のようです。方形通路の一角から下へ、木製の階段がおりていきます(右3段目)。二階分はあるでしょうか、二つの踊り場ごとに直角に折れ、二つ目の踊り場の下は少し短く、一階の床に着きます。 右4段目の場面で、左へ進むと玄関ホールに出る。他方右側、一つ目の踊り場の真下に半円アーチの扉口があって、帳が架かっています。この奥が居間のようです。 この帳から入ると、さらに、残念ながら経路は映されませんが、いかにもいかにもな地下の空間に通じています(下1段目左)。全体が洞窟風で、中央に大きな岩が据えられています。岩のまわりには階段が刻まれているようです。岩の頂上には大きな坑が開いており、緑の光を放っています。また四方から巨獣の骨めいた梁が斜めに伸びあがってくる。もしかするとこの地下空間自体、何ものかの腔内だったのかもしれません。 岩の頂きの竪坑はかなり深い(下1段目右)。ストーンリッグ洞窟に通じているという設定でした。こうした地下のありさまは、『怪談呪いの霊魂』(1963)におけるそれを連想させます(→あちらや、またあちらの2)。やはり地下空間の中央に階段で上がる祭壇が設けられ(下2段目左)、やはり祭壇中央には竪坑がうがたれている(下2段目右)。本作よりずっと広く、造りも人工的ですが、竪坑に太古の邪神が潜む点は変わらない。 |
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| ところで祭壇に昇りながらレディ・シルヴィアが唱える祈禱は興味深いものでした(約1時間21分)。左の欄に日本語字幕から、また右の欄に前掲の{ IMDb }該当頁の"Quotes"に掲載された該当箇所を引いておきましょう; | |||
| 「闇の世界で生まれ ー / 〝エデンの園〟で平和に 暮らしたダイオニオン/ 我々に知識をもたらし/ 邪神の暴威に苦しんだ ダイオニオン/ 邪神によってエデンの園 から追放され - / 人間に踏みつけにされた ダイオニオン/ 再び闇の世界に戻り - / そこに王国を築いた ダイオニオン/ 闇の世界を支配するダイオニオン/ 闇であり不滅である - / ダイオニオン/ 我等の生贄を受け給え/ 永遠の闇の神」 |
Oh Dionin... who came forth from the darkness. Dionin, who dwelt in peace in the Garden of Eden. Dionin, who gave us the gift of knowledge. Dionin, who suffered the wrath of the false god. Dionin who was driven from Eden by the false god. Dionin, who was trodden underfoot by the Son of Man. Dionin, who returned to the darkness. Dionin, whose kingdom is darkness. Dionin, who makes safe our darkness. Dionin, who is darkness. Dionin the immortal, accept this, our sacrifice. |
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| "Dionin"という神様は、少なくとも検索には引っかからないようです。オリジナルだとすると、ディオニューソス Dionysos
に引っかけてでもいるのでしょうか。他方「グノーシス諸派など Ⅲ」の頁の「おまけ」でも挙げましたが(→あちら)、 ハーラン・エリスン、伊藤典夫訳、「死の鳥」、『死の鳥』(ハヤカワ文庫 SF2085)、早川書房、2016、pp.171-229 は、本人の前置きによると、 「蛇がいいやつだったとする理論を押し進めた『創世記』の書きなおし」 とのことでした(p.405)。 |
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| またグノーシス主義中のオピス派において、エデンの園でエヴァに知識の木の実をとるよう促した蛇は、創造神よりも高位の存在からの使いと見なされます*。ナハシュ派の名も、蛇を意味します**。 エデンの園との結びつき、知識のもたらし手であること、偽りの神との対立など、オピス派に通じています。もっとも"Dionin"は映画の中では、「いいやつ」とは扱われていませんでした。オピス派やナハシュ派の蛇が光に由来するのに対し、レディ・シルヴィアの祈禱では闇との関連が強調されています。 |
* 大貫隆訳、『キリスト教教父著作集 第2巻Ⅰ エイレナイオス1 異端反駁Ⅰ』、教文館、2017、pp.120-121/第1巻30.7~8。 ** 大貫隆訳、『キリスト教教父著作集 第19巻 ヒッポリュトス 全異端反駁』、教文館、2018、p.155/第5巻6-3。 |
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| 2026/09/07 以後、随時修正・追補 | |||
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