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『Meigaを探せ!』より、他・出張所
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| 劇場版『アンパンマン』シリーズの三作目、『それいけ!アンパンマン とべ!とべ!ちびごん』(1991、監督:永丘昭典)の中に、かたき役ばいきんまんが歌って踊る場面があります。日本語版ウィキペディアの該当頁(→こちら)の「楽曲」の項、「挿入歌」にある「いくぞ!ばいきんまん」なのでしょう。その際次々に移りかわる背景はカンディンスキーから来てるんではあるまいか、と今回思ったのでした(一部ですが、下の背景1~8)。この作品は以前にも見ているのですが、その時どう受けとったのかは、例によって憶えていません。 | |||||||||
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| とはいえ具体的にカンディンスキーのどの作品からというのは、わからないでいます。その場合、 ・断片化されているせいもあって、気づかず見落としている ・手もとにある僅かな資料に掲載されていない作品 ・特定の作品から抜きだしたのではなく、参考にしつつあらたに作りだした ・カンディンスキー以外のネタがある ・まったくのオリジナル。見ようによってカンディンスキー由来と見えなくもないような気がするのはよくて偶然か、さもなくば勘違い いずれの可能性もありそうです。 ともあれ、たとえば上の背景8などのように、幾何学的な形態がぱらぱらと、斜め方向に散らばるさまは、下の図1や2などに通じるところがあるのではないでしょうか。背景8で左側に配された格子も、図2などに見られます(元の勤め先が所蔵する12点組の版画集《小さな世界》(1922)も引きあいに出せそうです→こちら)。 |
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![]() 図1 カンディンスキー、ヴァシリィ (1866-1944) 《黒い四角形の中に》 1923 油彩・カンヴァス 97.5 x 93 cm ニューヨーク、グッゲンハイム美術館 Cf., 『グッゲンハイム美術館名品展 - ピカソからポロックまで - モダン・アート50年 - 夢・心・実験』図録、セゾン美術館、1991、pp.180-181/cat.no.54 *本図のみ画像の上でクリックすると拡大画像とデータの頁にリンクします。 |
![]() 図2 カンディンスキー 《コンポジション Ⅷ》 1923 油彩・カンヴァス 140 x 200cm ニューヨーク、グッゲンハイム美術館 Cf., Hans K. Roethel、千足伸行訳、『KANDINSKY』(世界の巨匠シリーズ)、美術出版社、1980、pp.124-125 / 図28 |
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| 背景1、2、7のように、地が斜めの色の帯に分割される点では、図3などと比較できるでしょうか。 背景5では、より規則的な帯状に区切られ、その上でやや有機的な細長い形が飛び交っています。水平の格子を図4と並べてみましょう。 |
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![]() 図3 カンディンスキー 《コンポジション Ⅸ》 1936 油彩・カンヴァス 113.5 x 195cm パリ、国立近代美術館、ジョルジュ・ポンピドゥ芸術文化センター Cf., 前掲『KANDINSKY』(世界の巨匠シリーズ)、1980、pp.148-149 / 図39 『カンディンスキー展』図録、東京国立美術館、京都国立美術館、1987、p.140 / cat.no.87 |
![]() 図4 カンディンスキー 《連続》 1935 油彩・カンヴァス 78.7 x 99cm ワシントン、フィリップス・コレクション Cf., 前掲『カンディンスキー展』図録、1987、pp.136-137 / cat.no.86 前掲『KANDINSKY』(世界の巨匠シリーズ)、1980、p.120 / 挿図123 |
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| 背景3では、上下のない暗青色のひろがりに、小さな形がいくつも浮遊しています。図5~7にも、単一の焦点に収斂することのない、オールオーヴァな空間で、幾何学的だったり有機的だったりする小単位が揺れ動いていました。 | 図5 カンディンスキー 《固定された飛翔》 1932 油彩・カルトン 49 x 70cm Cf., 前掲『カンディンスキー展』図録、1987、p.113 / cat.no.66 |
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![]() 図6 カンディンスキー 《様々な関係》 1934 油彩、砂・カンヴァス 89 x 116cm ワシントン、クリーガー美術館 Cf.,前掲『KANDINSKY』(世界の巨匠シリーズ)、1980、pp.144-145 / 図37 |
![]() 図7 カンディンスキー 《空の青》 1936 油彩・カンヴァス 100 x 73cm パリ、国立近代美術館、ジョルジュ・ポンピドゥ芸術文化センター Cf., 前掲『KANDINSKY』(世界の巨匠シリーズ)、1980、pp.160-161 / 図45 前掲『カンディンスキー展』図録、1987、pp.144-145 / cat.no.92 |
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| 背景4では、幅の広い斜めの色帯に、右側で3本の弓状曲線が掛けあわされて、ダイナミックな動きをもたらしています。背景2ではくさび状に打ちこまれた斜めの三角が、背景7では曲線状の分割が動勢を持ちこんでいましたが、そうした勢いをさらに強調しているわけです。これらはまた、歌のリズムにも応じているのでしょう。 図1~3での斜めの配置もやはり動きを呼びこむためのものでしたが、図8はさらに、中央で右にふくらんだ弓状の帯が動勢をもたらしつつ、下方左右二本ずつの細長い蔓でバランスをとっています。図9の左右では、各要素を水平垂直に配しながらも、その水平垂直性を弱めに抑えることで、中央の形における曲線の連鎖を際立たせることになります。 |
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![]() 図8 カンディンスキー 《主調曲線》 1936 油彩・カンヴァス 129.4 x 194.2cm ニューヨーク、グッゲンハイム美術館 Cf., 前掲『グッゲンハイム美術館名品展』図録、1991、pp.188-189 / cat.no.58 |
![]() 図9 カンディンスキー 《伴奏つきの中心》 1937 油彩・カンヴァス 114 x 146cm 個人蔵 Cf., 前掲『KANDINSKY』(世界の巨匠シリーズ)、1980、pp.152-153 / 図41 |
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| やや暗めの背景3とすぐ次に触れる背景6は別にして、それ以外ではいずれも、明るく軽快な色彩で画面全体が分割されていましたが、溌剌とした躍動感をもたらすのは、それとともに、そうした空間を飛び交う小さな形態群でした。対するに背景6では、大ぶりで、有機性を強調されたイメージが、生き物めいた様相を呈しています。 カンディンスキーの作品においても、幾何学的構成におさまらない、小形態の散乱が、画面の表情を決める重要な因子となっていました。図1~3では幾何学性が色濃いものの、図4、6~7では、記号的とも微生物的ともいえそうです。図10では、形がやはり大ぶりで、これは下地なのでしょうか、不規則な黒で縁どられているため、異様といえなくもないかもしれない雰囲気で立ち現われることになる。図11ではそこまで図と地が対比されないものの、有機性、蝟集性を増してうごめいています。 |
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![]() 図10 カンディンスキー 《複雑=単純》 1939 油彩・カンヴァス 100 x 81cm パリ、国立近代美術館、ジョルジュ・ポンピドゥ芸術文化センター Cf., 前掲『カンディンスキー展』図録、1987、pp.142-143 / cat.no.90 |
![]() 図11 カンディンスキー 《気まぐれな形態》 1937 油彩・カンヴァス 88.9 x 116.3cm ニューヨーク、グッゲンハイム美術館 Cf., 前掲『グッゲンハイム美術館名品展』図録、1991、pp.190-191 / cat.no.59 |
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| ここに挙げたカンディンスキーの作品は、1920年代以降のものばかりです。それ以前の激しい筆致と強い色の対比から、形がくっきりした輪郭で区切られるようになります。たとえば藤枝晃雄は、 「カンディンスキーの形体は、モンドリアンと比べれば明らかなように輪郭線の概念から逃れていない。色彩は カンディンスキーの芸術のなかでもっとも優れているのは『構成のための習作Ⅱ』(1910年)などが描かれたころから、1915年までの時期の絵画である。…(中略)… カンディンスキーの精神性の追求は、一つの試み、作品に内在することのない志向に終わっている。…(中略)… カンディンスキーの悲劇は、先駆者のそれであり、ミュンヘン時代以後、それはいよいよ強まっていったのである」 (「ワシリー・カンディンスキー カンディンスキーの絵画」(1985)、『モダニズム以後の芸術 藤枝晃雄批評選集』、東京書籍、2017、p.310) と批判的に述べていました。 品質評価は感覚的に把握できないとならず、言葉だけではなかなか難しいのに加えて、年をくってかえって、わからなくなってきた気もするので、おくといたしましょう。とまれ1910年代の表現主義的抽象における色の組みあわせは、16世紀ヴェネツィア派以来の大地の色調とは異なっているのではないかと感じたことがありました。クプカとチェコの民俗芸術の関係が連想されたりもしますが、ではロシア的なものと見なせるかといえば、マレーヴィチの色彩とはいっしょにできそうになく、そう簡単にまとめられるものでもなさそうです。 また1920年代以降の、地から切り離された図と化した形態は、上に挙げたわずかな作例で見ても、とりわけ有機性を帯びた場合、地に溶けこんでいないというだけではすまない、過剰さをはらんでいるのではないでしょうか。こうした点でカンディンスキーは、モンドリアンやマレーヴィチのようにいらぬものを削ぎ落とした徹底性が欠けているからこそ、このところ気になってきたのでした。 それはさておき、『とべ!とべ!ちびごん』での「いくぞ!ばいきんまん」の場面の背景にカンディンスキー的要素が用いられているのかどうか、各自検討していただきたく思う所存です。 |
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| なお本作品では他に、ゴッホが描いたような跳ね橋が出てきました(下1段目左)。ゴッホの《アルルの跳ね橋》には何点かヴァージョンがあるようですが*、前景の川岸が画面左に配されているものが多く、『とべ!とべ!ちびごん』の場面同様、右側にあるのはヴァルラフ=リヒャルツ美術館版(下2段目左)だけのようです。 | * 日本語版編集:嘉門安雄、『ゴッホ2 リッツォーリ版 世界美術全集 20』、集英社、1974、図67, pp.90-92/cat.nos.490,
492, 493, 494。 また日本語版ウィキペディアの該当頁→こちら。 |
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![]() ゴッホ(1853-1890) 《アルルの跳ね橋》 1888 油彩・カンヴァス 49.5 x 60cm ケルン、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館 Cf. 上掲『ゴッホ2 リッツォーリ版 世界美術全集 20』、集英社、1974、pp.90, 92/cat.no.494 |
![]() ゴッホ(1853-1890) 《アルルの跳ね橋》 1888 油彩・カンヴァス 54 x 65cm オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館 Cf. 上掲『ゴッホ2 リッツォーリ版 世界美術全集 20』、集英社、1974、図67, p.90 /cat.nos.490 中野京子、『名画と建造物』、角川書店、2023、pp.96-105:「作品10 フィンセント・ファン・ゴッホ『アルルの跳ね橋』」 |
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| もっとも上1段目左の場面の後、間をおかず上1段目右のカットが現われました。川岸は画面左側に移り、少し橋に近づいたようです。映画のスタッフがゴッホのヴァルラフ=リヒャルツ美術館版と、川岸が左側に配されたヴァージョンの内、たとえばクレラー=ミュラー美術館版(上2段目下右)双方を参照かどうかはわかりません。図版化されることが多いのはクレラー=ミュラー美術館版のようで、それを参照しつつ左右反転させたのかもしれません。そもそもゴッホの絵ではなく、何かの写真などを元にした可能性もなくはない。 | |||||||||
シリーズ第7作『それいけ!アンパンマン ゆうれい船をやっつけろ!!』(1995、監督:矢野博之)には、海岸に押し寄せる白波が横に並ぶ白馬の群れに変わるという場面がありました(右)。これはウォルター・クレインの《ネプトゥーヌスの馬たち》(下)を連想させずにいませんでした。ただこの場合も、波と馬を結びつける比喩が、たまたま相似たイメージにたどりついた可能性は否めますまい。![]() ウォルター・クレイン(1845-1915) 《ネプトゥーヌスの馬たち》 1892 油彩・カンヴァス 86 x 215cm ミュンヘン、ノイエ・ピナコテーク Cf., Le Symbolisme en Europe, Rotterdam, Museum Boymans-van Beuningen, Bruxelles, Musées Royaux des Beaux-Arts de Belgique, Baden-Baden, Staatliche Kunsthalle, Paris, Grand Palais, 1975-76, p.48 『美術手帖』、no.415、1977.1:「特集 象徴主義の画家たち」、p.59、p.92 Robert L. Delvoiy, translated by Barbara Bray, Elizabeth Wrightson and Bernard C. Swift, Symbolists and Symbolism, Rizzoli, New York, 1978 / 1982, p.128、p.195 『週刊朝日百科 世界の美術 18 象徴派』、1978、p.6-217 |
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| こうした例は他にもあることでしょうが、他方、『とべ!とべ!ちびごん』では見られませんでしたが、劇場版『アンパンマン』シリーズではぽつぽつ、宮殿や廃墟などが舞台として登場します(原作やTVシリーズは未確認)。『ゆうれい船をやっつけろ!!』では、なかば海に沈んだ古典古代風の廃墟がちらりと出てくる他(約14分)、ガイコツ島にあるドクター・ヒヤリの城が、いかにもいかにもな相貌を見せてくれました(右)。 | ![]() |
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| 第二作『それいけ!アンパンマン ばいきんまんの逆襲』(1990、監督:永丘昭典)では、砂漠から生えだしてくるメコイスの塔(約10分)とか、クライマックスの舞台となるヤーダ国の廃都(右)という、物語の肝となる建物が登場します。他方途中で出てくる廃墟と化した古城は(下左)、物語上なくてはならない設定とはいえますまい。それでいて屋内の荒廃したさままで描かれるのは(下右)、大いによしとすべきところでしょう。 | ![]() |
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| こうした例は他にもあるのですが、ここでは、シリーズ第4作『それいけ!アンパンマン つみき城のひみつ』(1992、監督:永丘昭典)にのみ触れておきましょう。タイトル・ロールは名前通り、色とりどりのブロックを積みあげた城です(右)。宙に浮かぶブロックもある。 ある人物が連行される際、上へ伸びるポールに支えられた台に乗って、棟と棟の間をえんえんまっすぐ上昇していきます(下左)。これは、「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁の「ix. アニメーションより」でも触れた(→こちら)、『王と鳥』(1980、監督:ポール・グリモー)の一シークエンスを参照しているものと思われます(下右)。はっきりした引用と見なせそうな点からして、オマージュととってよいでしょうか。 |
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| 連行先で幽閉される部屋は、横に伸びた橋の先にありました(上左)。これは『王と鳥』の初出『やぶにらみの暴君』(1952)から影響を受けたという、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979、監督:宮崎駿)におけるヒロインが幽閉されていた部屋を連想させます→そちら;上右)。同じく宮崎駿が担当した、『長靴をはいた猫』(1969)における魔王の城で、石製の枝の先端に設けられた時計を思いだすこともできるでしょう(右→あちら)。 | ![]() |
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| とまれ、つみき城は『王と鳥』における城同様、都市としても機能するだけの規模を有しています。下層は工場などにあてられているようです。城は海に浮かぶ島全体を占めており、主人公一行は海面の高さの最下層から城に潜入します。右と下左の場面は最下層から上へ通じる経路の様子で、平らなブロックはやはり昇降機の役割を果たします。 他方下右の場面は、立ち入りを禁じられた扉の先で、下の方へと降りていく階段です。この城は何かと上下の方向に伸びており、そうした空間を擁しつつ、入り組んでもいる点で、大いによしとすべきところでしょう。 |
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| 2026/09/02 以後、随時修正・追補 | |||||||||
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