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猫とカナリヤ
The Cat and the Canary
    1927年、USA 
 監督   パウル・レニ 
撮影   ギルバート・ワーレントン 
編集   マーティン・G・コーン 
 美術   チャールズ・D・ホール 
    約1時間23分
画面比:横×縦    1.33:1 
    モノクロ、サイレント 

DVD
* [ IMDb ]によると、1時間48分のヴァージョンがあるようです。

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 ドイツで『裏町の怪老窟』(1924)などを監督したパウル・レニが渡米して撮ったコメディー・スリラー。いわくつきの遺産をめぐって古い屋敷に集まった相続人候補たちが巻きこまれる一夜の顛末、といったところでしょうか。怪人は徘徊しますが、超自然現象は起こりません。
 埃だらけの窓を拭う手を映したタイトル・バックに続いて、屋敷というか城の全景が登場します。夜空を背景に、いくつもの塔と、塔との比率からしてかなり巨大な十字架が何本も林立するというもので、模型か絵であることはすぐわかるものの、現実味がなさすぎてかえって雰囲気を出しているのではないでしょうか。  『猫とカナリヤ』 1927 約5分:館の外観
 城はすぐ、何本かのガラス瓶と重ねあわされます。建物と瓶、ナレーションで語られる説明との間に、何らかの地口でも仕込まれているのかどうかは定かではありませんが、城と瓶の重ねあわせは単純なだけに印象的でもありました。オーヴァラップは別の場面でも効果的に用いられています(追補:→「怪奇城の肖像(後篇)」の頁、また「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。  『猫とカナリヤ』 1927 約1分:館の外観とガラス瓶の二重映し
『猫とカナリヤ』 1927 約18分:時計の機構 『猫とカナリヤ』 1927 約18分:時計の機構とテーブル等の二重映し
 城の中に入ってまず映されるのが長い廊下です。向かって左には窓が列をなし、右側は壁になっているらしい。窓にかけられたカーテンは、手前か奥のいずれかで、吹きこむ風にたなびくことになる。廊下・窓・風に翻るカーテンという組みあわせは、この映画以前にもあったかもしれず、そもそも小説などに出てきそうですが、この後も定番となって、ただそれだけで雰囲気をかもしだしてくれます。
 またこの映画ではカメラは原則として固定されて撮影しているのですが、この序盤では、前方に移動して何者かの主観ショットになっています(
追補:→「怪奇城の廊下」の頁でも触れました)。
『猫とカナリヤ』 1927 約3分:廊下と風に翻るカーテン、玄関側から
『猫とカナリヤ』 1927 約5分:廊下、奥の階段上から 『猫とカナリヤ』 1927 約12分:廊下、玄関の方へ
 廊下の奥には階段が見えます。少し後でわかるのですが、建物の玄関を入ると突き当たりで、左に進んでから右に折れると、この長い廊下に至るという設定のようです。階段の手前まで進んで、左手に入ると書斎だか広間があって、ここで遺言状が開封されます(追補:→「拳葉飾りとアーチ - 怪奇城の意匠より」の頁や、→「怪奇城の画廊(中篇)」の頁も参照)。位置ははっきりしませんが近くに食堂、ヒロインが導かれる寝室があるらしく、また二人の女性の寝室は二階となります。 『猫とカナリヤ』 1927 約44分:灯りの消えた書斎
 なお書斎ないし広間にせよ寝室にせよ、天井はやたらと高く、4~5mはありそうです。廊下を俯瞰で撮ったり、他方人物を下から見上げるように撮ったりと、視角が変化するのはいいとして、また撮影やセット設営の都合もあるのかもしれませんが、寝室まで天井が高いのは住みごこちが悪そうでした。ちなみに食堂も一角しか映らないとはいえ、そのかぎりでずいぶん殺風景な壁です。  『猫とカナリヤ』 1927 約48分:寝室の一つ
『猫とカナリヤ』 1927 約56分:二階、階段の周辺 『猫とカナリヤ』 1927 約54分:階段附近
 後に地下室が出てきて、手前と奥に階段のある、面白い造りになっているのですが、その位置も含めて、これ以上の情報は読みとれません。たとえば長い廊下の壁側の向こうがどうなっているのかも、わからずじまいでした。舞台劇が原作である点からすれば、画面に映る部屋の数は決して少なくないものと思われますが、その意味では逆に、この長い廊下こそが、この映画の中でさまざまな要素が交わる場なのかもしれません。クライマックスもこの廊下が舞台となります。  『猫とカナリヤ』 1927 約1時間19分:地下室
 冒頭の廊下の場面には隠し棚が現われ、ヒロインの寝室でも隠し棚の探索が行なわれるのですが、何といっても嬉しいのは、秘密の通路が大きな役割を果たしている点です。画面に映るかぎりで、書斎だか広間の書棚に一つ、ヒロインの寝室の寝台の頭が接する側の壁に一つ、そして地下室に一つと、少なくとも三箇所でつながっているらしく、ちらりとはいえ通路の中も映されますし、またオーヴァラップで蜘蛛の巣の張った絡繰仕掛の作動するさまが重ねあわされるのも、現実味はないとはいえ喜ばしいかぎりです。古城といえばやはり隠し通路で、これが出てきただけで超自然現象が起きないのも容赦したくなるところなのでした(追補:こちらも参照:「怪奇城の隠し通路」の頁。1939年のエリオット・ニュージェント監督による再映画化版での隠し通路にも触れました。→「怪奇城の図書室」の頁でも挙げました)。 
『猫とカナリヤ』 1927 約1時間17分:隠し通路の内部 『猫とカナリヤ』 1927 約59分:隠し通路の絡繰
 なお、ラスト・シーンを飾るむやみに背もたれが強調された椅子は、『魔人ドラキュラ・スペイン語版』にも登場するとのことです(スカル、『ハリウッド・ゴシック』、1997、p.268、p.270)。美術監督を同じチャールズ・D・ホールがつとめています(追補:戸棚、三角棚、鳥籠、他 - 怪奇城の調度より」の頁も参照)。
『猫とカナリヤ』 1927 約1時間22分:背もたれの高い椅子 『猫とカナリヤ』 1927 約52分:字幕、驚きとあきれ
Cf., 

Beverly Heisner, Hollywood Art. Art Direction in the Days of the Great Studios, 1990, p.284

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.65-67

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.24-25

 2014/08/23 以後、随時修正・追補
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