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呪いの館
Operazione paura *
    1966年、イタリア 
 監督   マリオ・バーヴァ 
 撮影   アントニオ・リナルディ、マリオ・バーヴァ 
編集   ロマーナ・フォルティーニ 
 セット装飾   アレッサンドロ・デッロルコ 
    約1時間23分 ** 
画面比:横×縦    1.85:1 ***
    カラー 

DVD
* 手もとのソフトは英語版。英題は
Kill, Baby, Kill
** [ IMDb ]によるとイタリア版は約1時間25分
*** 手もとのソフトでは1.33:1
追記: 『血ぬられた墓標』の「追補」に記したように、2020年6月10日、『没後40年 マリオ・バーヴァ大回顧 第Ⅰ期』 中の一本として日本版ブルーレイで発売されました。イタリア語版、約1時間24分、1.85:1。
………………………

 「70年代には日本でもその『エクソシスト』や『悪魔のいけにえ』のヒットでオカルトものやホラー映画が流行したが、そんな折り(73年)、66年に作った『呪いの館』が公開された。…(中略)…何しろ作られた年が年ゆえ、いくら得意の怨霊譚といっても、その趣向の数々には怖さより古さを感じてしまう。これがせめて60年代に公開されていればまた違った感想を抱くこともできただろうが、こうなると内容云々よりも時代のズレばかり先に立つ」
と二階堂卓也は述べていました(「二人目 マリオ・バーバ イタリアン・ホラーの先駆者」、『マカロニ・マエストロ列伝』、2005、pp.49-50)。これは当時の実感だったのでしょう。
 とはいえ本作は、『血ぬられた墓標』(1960)や『白い肌に狂う鞭』(1963)に続くバーヴァの本格的な古城入り怪奇映画です。多色映画におけるバーヴァのお家芸、光と影を強調し、時に極彩色の照明を駆使した中、登場人物たちは寒村の暗い路地や館の暗い廊下、螺旋階段を行ったり来たりしてくれます。手もとのソフトの画質がやや粗いせいもあるのかもしれませんが、とりわけ前半で石造家屋に囲まれた狭い路地が主要な舞台になることと相まって、これまで以上にその雰囲気は濃密で、ほとんど息苦しさの域にまで達しているように思われます。気のせいかもしれませんが路地、廊下、階段など通行に費やされた場面は先行作品より長いような気もしなくはない。他方皆無ではないにせよ、これまでの作品で要所要所に登場した赤があまり目立たないのは何か関係があるのでしょうか。代わって茶色、赤褐色、柿色などと青系との対比が大きな比重を占めています。
 なお本作については下に掲げた黒沢清+篠崎誠『黒沢清の恐怖の映画史』(2003)の該当箇所がいろいろ面白い指摘をしてくれています。その中で黒沢清は、
「そのうえメインとなる館が、いったいどこからが館でどこからが街なのかはっきりわからないような、街全体がひとつの異様な世界になっている」
と語っています(p.142)。何と美しい言葉でしょうか。ともあれそちらを一読いただければ無理に付け足すことも思いつかないのですが、ここは例によって、ずるずるメモすることといたしましょう。

  [ IMDb ]によると本作では、グラプス男爵夫人の城をローマの南東郊外グロッタフェッラータにあるヴィラ・グラツィオーリ Villa Grazioli, Grottaferrata, Roma でロケしたとのことで、Google の画像などからすると、城の前面や壁画のある廊下がそれにあたるようです。現在はホテルになっているとのこと。また村の入口のアーチはラツィオ州ヴィテルボ県のファレリイ Falerii, Viterbo、主人公の乗った馬車が通り過ぎる半円筒がいくつか突きでた建物も同じくファレリイのサンタ・マリア教会 Chiesa di Santa Maria di Falleri、村の路地等はやはりヴィテルボ県のファレーリア Faleria, Viterbo で撮影されたのでしょう(またイタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: Operazione paura (1966)"([ < il Davinotti)を参照。なおファレーリアの街路は『リサと悪魔』(1973)でも用いられているとのことです。追補:やはり il Davinotti によると、『バンパイア・イン・ベニス』(1988、監督:アウグスト・カミニート)で、塔から身を投げた娘をクラウス・キンスキー演じる吸血鬼が連れていった、壁画のある廃墟は、ヴィラ・グラツィオーリで撮影されたようです→こちら:"LOCATION VERIFICATE: Nosferatu a Venezia (1988)"追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました)。
『呪いの館』 1966 約0分:冒頭の建物  まずは引きで塔なのかファサードなのか、右側は木に隠れて見えませんが、高くそびえる建物がやや下から見上げられます。2階と3階にあたるのでしょうか、縦に長い窓が上下に二つ、白く開いています。左側にも少し間を置いて木立がある。空は大部分薄い青ですが、地平線近くで夕暮れの赤みを帯びています。建物のすぐ前には噴水の白がくっきり映えている。建物の1階部分は赤みを、頂上付近はかすかに青みを帯びています。 
 地面近くの入口から女性が悲鳴を上げながら飛びだしてくる。左の方へ少し走ると、すぐ向かいにあるということなのでしょう、別の建物が今度はもう少し近づいて見えてきます。こちらは最初の建物より強い光を照り返している。左側に方形の玄関口でしょうか、真っ黒になっています。その右手、左上がりに鉄の手すりのついた階段があがっていて、女性はここを登る。
  カメラが下から上へ傾けられ、階段の上の方が下から見上げられます。上は踊り場になっており、その向こうに方形の扉口がある。その右にも方形の窓がありますが、双方扉や窓ガラスははまっていません。扉口と窓の間、また右側の壁の縁は壁の表面が剥がれ落ちて白い下層が剥きだしになっています。表面の残っている部分は柿色です。とまれ手入れもされていない廃屋らしい。扉口の向こうには木の天井が見えています。下からの光でオレンジに映えている。
  女性が扉口に入ると、カメラは屋内からの視点に換わります。やはり下からの仰角です。扉口の脇は青みを帯び、向こうの空はあざやかな暗青色です。左の壁は柿色でした。手前下には鉄の柵が見えます。入ってすぐ柵が下にあるというのはよくわかりませんが、カメラは後退しつつ下降し、女性は見えない何かに押されるかのように、尖った柵の上に落ちるのでした。
追補:柵の槍状忍び返しの上に転落して串刺しになるというモティーフは、ヒッチコックの『白い恐怖』(1945)などの先例がありましたが、本作、『バンパイア・イン・ベニス』(1988、監督:アウグスト・カミニート)、『デモンズ3』(1989)と、イタリア産怪奇映画で三度見られました。頻度が多いといっていいものかどうか。そういえば『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018、監督:フアン・アントニオ・バヨナ)でも出てきました)。

 タイトル・バックでは子供の笑い声が響き続けます。
 狭い村の路地を赤頭巾の男たちが柩を担いで通ります。赤頭巾というと『白い肌に狂う鞭』にもやはり柩担ぎで登場しましたが、あちらでは全身赤衣だったのに対し、今回は頭部だけです。村の家々は石造りで、柿色をしている。空は白い曇り模様です。柩担ぎたちは4カットに渡って村の中を進みます。おそらくヴィテルボのファレーリアでのロケによるものなのでしょう。

  大きな建物の左奥から馬車が進んできます。カメラの前を横切り、建物の角に沿って右奥へ向かう。建物は暗い石でできており、窓のまわりだけ白で縁取られています。半円筒がいくつも突きだしている。先に触れたように、ヴィテルボはファレリイのサンタ・マリア教会です。 
 また馬車が左奥から現われ、教会址の前で止まります。教会の壁は上方が崩れ落ちており、入口の半円アーチは白い。御者の視線の先に、柩を担ぐ男たちが遠く土手の上で、小さくシルエットとなって進んでいきます。真横からとらえられる。空は水色です。手前にはやはりシルエット化した木の枝が画面上下を貫いている。  『呪いの館』 1966 約4分:教会址
 御者は乗客に「ドクター」と呼びかける。乗客は検屍官でした。御者はこの先に行くのは御免こうむる、ここは「呪われた村」なのだという。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』やその数多の映画版でお馴染みの馬車の御者の振舞は、今回のように友好的な場合から『凶人ドラキュラ』(1966)におけるごとく強引な場合まで振れ幅がありますが、あわせてもはや伝統というべきなのでしょう。
 すぐ左奥に左右から伸びてきた壁にはさまれて、半円アーチが見えます。これが村の門とのことです。壁は柿色で、地面沿いに草の緑が這っています。壁の左側は廃教会につながっているようです。少し後に壁の右端が手前に少し突きでて終わっていることがわかります。このアーチもファレリイでロケされたものでした。
 馬車が引き返す際、教会のアーチの向こうが見えます。ずっと奥に黒く陰になった壁があり、下から上に窓、十字、ずっと上に窓が開いています。
 
 検屍にきた医師(ジャコモ・ロッシ・ステュアート)がアーチをくぐると、すぐ向かいにも並行して壁が伸びていました。こちらの壁にもいくつかアーチが設けられています。二つの壁の間にはもともと屋根があったようですが、それは落ちてしまい、今は木の格子だけが残っています。  『呪いの館』 1966 約6分:二つの壁の間
 二つ目の壁の右手のアーチをくぐると、狭い路地が奥へ伸びています。下り坂になっているでしょうか。
 すれ違った村人に宿屋の場所を尋ね、突きあたりを右に曲がる。その先は左に斜面があり、右奥は青い。見上げると塔状の建物がそびえています。青みを帯びている。 
カメラが上から下へ振られ、下の方では柿色を帯びている。地面付近はやはり緑の草に覆われています。  『呪いの館』 1966 約7分:宿屋
 窓がアップになる。青みを帯びています。向こうから二人の顔がこちらを見ている。オレンジ調です。
 手前で数段のぼり、中に入る。食堂になっています。壁は青灰色で、赤みを帯びた人物たちの顔と対比される。
  食堂は奥に長い造りのようで、突きあたりに階段があります。手前から奥へ10段ほど上がり、それから右に折れる。折れた部分の下には半円アーチが見えます。床から3~4段上がった、左手の壁にも扉のあるのが後にわかります。
 医師はクルーガー警部に会いに来たといいます。村人の幾人かは敵意を感じさせる態度をとる。それを階段の上からの声が止めます。頭を剃りあげた男です(マックス・ローレンスことルチアーノ・カテナッチ)。「ドクター・エスヴァイ?」と誰何する。ここで検屍官の名前が出たのでした。男は村長のカールだという。


 2階の部屋です。壁はやはり青灰色です。奥右手に黒い扉があり、その上にずっと左まで伸びる幅の広い半円アーチをいただいています。左には窓があり、扉と窓の間に真紅のカーテンが下がっています。クルーガー警部(ピエロ・ルッリ)が村人を訊問していますが、埒があきません。警部は医師に、グラプス男爵夫人のメイドが手紙をよこした、身の危険を訴えていたのでやって来るとすでに死亡していたと説明します。村長の背後の壁に角をはさんで絵が2点かかっています。大きなものではなく、細部は見てとれませんでしたが、色が鮮やかでした。
 警部と医師は廊下に出ます。手前にくびれのある欄干の柱が並んでいる。警部が左へ進むとカメラも追います。柱の列はいったん途切れ、間を置いて左でまた並ぶ。奥は広い窓になっています。警部は左で止まって、右に戻る。カメラもそれに従います。


 墓場です。薄く霧が這っています。
 警部は宿の2階の部屋に戻り、日本語字幕によると、村長から皆が恐れているのはグラプス家の館の秘密なのだと告げられる。ところでこの部屋は最初警部が訊問に使っており、ここでは村長の部屋のようで、これは村長が警部に使わせたということで説明できるのですが、後には医師が滞在していたりもします。セットが一つなのはいいとして、2階の似たような別の部屋ということなのか、このあたりは気になってしまう点でした。
 墓場の脇にある小屋で検屍が行なわれます。立会人としてモニカ(エリカ・ブラン、『淫虐地獄』(1971)で再会できることでしょう)がやって来る。彼女は2歳の時に村を離れ、戻ってきたその日にイレーネが死んだのだという。
 日が暮れる様子がはさまれます。日は地平線近くの低い位置にあり、下辺沿いから右で絶壁のように立ちあがり、そのまま右にずっと真っ暗なひろがりが占めます。カメラは後退していく。
 また墓場です。青く染まっている。左手にある検屍場の窓のオレンジと対比されています。カメラはけっこう高い位置で前進し、また後退します。ブランコの動きだと察せられる。子供の笑い声が伴なわれます。カメラが止まると、画面上半にブランコと背を向けた少女の腰から下が揺れだします。体躯はシルエットになり、白いドレスはオレンジを帯びている。
 検屍の模様をはさんで、カメラが小屋へ向かって左から右に前進します。亡骸の心臓から銀貨が出てくる。モニカは何百年も前からこの村では、苦しんで死んだ者の心臓に銀貨を刺せば安らかな死へ導くと言い伝えられていると語ります。この台詞は声だけで示され、その間カメラは屋内から窓に向かって前進します。バーヴァ恒例、視線の主不在のカメラの動きです。窓は青く、まわりは真っ暗です。窓の外、下の方から手が伸びてくる。
 
 街角が下から見上げられます。右手の建物にはバルコニーが突きでている。その向こうにも別のバルコニーらしきものが見え、上に黒いΓ型の何かがあります。仰角のままカメラは右に振られる。アーチの上端の紋章がアップにされます。 『呪いの館』 1966 約19分:街角
 かなり上から路地が見下ろされます。奥には半円アーチがあり、そこから医師とモニカが出てくる。アーチの向こうは青く、奥から光が射しています。右上には鉄の柵がある。手前に向かってのぼり階段になっているようです。  『呪いの館』 1966 約19分:路地、上から
このあたり地面はずっと石畳です。道幅は狭く、のぼりおりが多い。またとにかくあちこちに半円アーチがあるようで、曲がりくねっては枝分かれしているのでしょう。本作ではこの後に続くシークエンスがその一例ですが、夜の薄暗さに浸され、しかし霧の向こうに光源が配される。バーヴァお得意の極彩色照明も欠いてはいません。その中を人物がうろうろするのですから、これはもう、溜息をつくしかありますまい。 
 モニカを送った後、医師は暗い路地を進みます。シルエット化しており、前に長い影を落としています。ここも奥に半円アーチがあり、やはり霧の向こうから光が射しています。右奥から左手前へ進む。  『呪いの館』 1966 約20分:路地
向こうに数段登って扉がある家の前を通り過ぎます。すると扉が開き、おりてくる足だけが映されます。足の先行もバーヴァ作品でしばしば見かけるモティーフでした。 
 振りかえるとカメラは斜めになっている。左手前に右下がりの階段があり、踏面は青く照り返しています。階段の上にある柱は赤みを帯びている。右奥に半円アーチがあり、猫が横切る。猫は後にも登場することでしょう。路地の中央を奥から手前へ水の筋が続いています。  『呪いの館』 1966 約21分:猫が横切る路地
医師は少し進み、切り替わればまた路地です。影が濃い。左手前に蔦の緑が配されています。医師をつける人物がいる。  『呪いの館』 1966 約21分:路地
 1度振り返り、また進みます。左に建物が迫り、右は上への斜面になっている。正面奥には半円アーチがありますが、低い位置にあるように見えます。後のショットでアーチの中央に白い柱があることがわかります。その上には天井があるのでしょうか、窓からの照り返しが映っている。ここで前方から出てきた男に医師は襲われます。後をつけていた男も加わります。
 あわやというところを、女の声が制止する。カメラは急速にズーム・インして、また急速にズーム・アウトします。急速ズームはバーヴァのこれまでの作品でも用いられていましたし、バーヴァに限らずイタリア製娯楽映画ではよく見かけるような気がします。即物的な効果狙いということで個人的にはどうかと思ったりもするのですが、これもイタリア映画を構成する一要素ではあるのでしょう。ともあれ女(ファビエンヌ・ダリ)は斜面の上奥に立っていたようです。すぐに姿は消えますが、影のみが残っています。
 
『呪いの館』 1966 約22分:路地、ルース登場 『呪いの館』 1966 約22分:路地、右に斜面
 宿で娘(ミカエラ・エスドラ)が掃除しています。後に名はナディーンと知れます。戻ってきた医師に、1時間ほど前に館に出かけたという警部の伝言を伝えます。行けば2度と戻れないと付け加える。問いつめられて階段下のアーチの奥に逃げこみ、医師が階段をあがるとまた出てきます。  『呪いの館』 1966 約24分:宿屋、階段下の奥への扉口
玄関に閂をかける。窓の外からはりつく白い少女を見てしまいます。
 おかみは「見たのね」という。見るとやばいようです。ルースなら助けられると、亭主を呼びに遣ります。亭主が玄関を開けるとそこにルースが立っていました。先だって医師襲撃を制止した女性です。
 
 医師が2階の廊下を左から右へ進みます。欄干越しです。階段をおりてくるさまが下から見上げられる。階段の上の扉の向こうは柿色、壁は青です。  『呪いの館』 1966 約25分:宿屋、二階廊下の欄干
階段をおりると話し声を聞きつけて左へ進みます。カメラもそれを追います。階段下付近はオレンジに染まっており、影が濃い。手前のテーブルと右のカウンターは青くなっています。ただしテーブルの上にのせられた果物皿はオレンジ色でした。
 扉の前で隙間からのぞきます。カメラは下からの角度で、影が濃い。中は寝室でしょうか、ベッドがあり、壁に接した頭の部分には、鉄の楕円形の柵がついているのですが、その影が濃くすぐ後ろの壁に落ち、実物と区別できないまでに錯綜しています。ルースがナディーンに呪術的な処置を施します。
 のぞきこむ医師の背をとらえたカメラは、ずっと左へパンしていきます。玄関の方まで回りこむ。窓です。検屍小屋の時同様、真っ青で、まわりは真っ暗です。やはり外・下から手が伸びてくる。向こうから正面向きで少女の姿が現われます。両手を窓にぺたりとつける。屋内の奥を見渡すショットに切り替わります。


 ルースは奥の部屋の右手にある裏口から出ます。宿屋が下から見上げられます。右上にあり、壁が斜めになっている。左向こうには奥まって、下方に二つ半円アーチが見えます。宿屋も左の建物も青く染まっています。
 宿屋の手前にはくだりの階段があり、ルースはここを手前におりてくる。そのままおりつつ右に向かいます。カメラもそれを追う。さらに右の物陰から医師が出てきます。二人は画面下方に位置し、上の方は緑に染まっている。二人は話しながら右へ進みます。切り替わると上から見下ろした眺めになる。下り坂の路地で、奥に半円アーチが見えます。先だって医師とモニカが奥からのぼってきたのと同じ構図ですが、今回は医師とルースは奥へくだっていきます。
 アーチをくぐった先で医師はルースに道を聞いて左方、館に向かう。ルースは奥へ行きます。


 獣の骸骨が大写しになる。その右には木菟の剥製があります。カメラは左から右へ振られる。影と光の対比が強い。カメラは少し後退しつつまた右へ、暖炉があり扉が見えてきます。扉が開きルースが入ってくる。右から肩に手が伸びる。これもよく見かけるモティーフでしょうか。村長でした。また犠牲者が出たと告げる。二人は金網越しにアップでとらえられます。ルースは長々と喋ります。その間に村長は出ていきますが、こちらは音だけで示されます。

 約33分にして、館が登場します。村の路地に続く古城映画的山場の一つの始まりです。
 
『呪いの館』 1966 約35分:館 やや下からの眺めで、手前左右を黒々とした木が枠取っています。奥に館が見える。やや右下がりで横に伸び、三層が目に入ります。1階は半円アーチのフランス窓が横に並び、2階と3階には方形の窓が並び、間を柱で区切られている。その右手で影になった部分を経て棟が手前に少し突きだしている。建物はさらに右へ続くようですが、暗がりに隠れます。3階以上も真っ暗になっています。建物は柿色で、手前の地面は青くなっている。1階の窓の桟も青みを帯びています。手前から奥へ、小さく医師が進みます。先に触れたように、ローマの南東郊外グロッタフェッラータにあるヴィラ・グラツィオーリであります。 
 2階より上の、方形の窓の並びをカメラが左から右へ撫でます。窓の奥は真っ暗です。また引きになり、医師がフランス窓の1つから中に入っていく。 
 屋内が下から映されます。左手前に焦茶の扉があり、右下に暗赤色の布らしきものが見えます。右手前には何やら豪華な刺繍を施された細い三角のものがある。少し間を置いて、奥に玄関扉がある。暗青色です。そこから医師が入ってきます。医師は手前に来る。カメラも右へ進みます。内側の扉の手前で数段おります。  『呪いの館』 1966 約35分:館、入ってすぐのところ
 左手に左上がりの階段の手すりが見えます。奥に窓がある。壁は湾曲しているようです。フランス窓が横に並ぶ正面の外観からするとこの配置はありそうにないのではないかと思われますが、あるいはフランス窓の並びの右手、前に突きでた部分なのでしょうか。しかし細かく詮議立てはしますまい。螺旋階段なのですから。
 医師は立ち止まって振り返ります。腰から上が映っています。見上げて警部に呼びかける。螺旋階段をのぼります。
 
上から螺旋階段が見下ろされます。右上から回ってきて手前を経て左下にくだっていく。内側には手すりがついており、左奥の壁に柿色の照り返しと欄干の柱の影が落ちています。その周囲は真っ暗です。右手の部分は青灰色。その右側に何やら赤いものが見えます(追補:→「怪奇城の高い所(後篇) - 陽など」の頁でも触れました)。  『呪いの館』 1966 約36分:第一の螺旋階段
 下から医師がのぼってきます。カメラも上へ振られる。階段は上に続きますが、医師は止まり、手前へ出る。
そして右へ、廊下を奥へ背を向けて進みます。床に長い影が落ちている。廊下の左の壁には壁画が描かれています。これはヴィラ・グラツィオーリに実際にあるもののようです。鎧が二つ並んでいる。天井が高い。画面手前、右にも大きく鎧の胸部が映りこんでいます。暗青色を帯びている。突きあたりに扉らしきものが見えますが、その手前を左に、数段登って折れます。雷の音が鳴る。  『呪いの館』 1966 約36分:壁画のある廊下
 また螺旋階段です。今度は真上から見下ろされます。画面上の方は青く、下はオレンジです。真ん中は黒い。蹴込みもやはり黒く沈んでいます。螺旋階段を真上から見たショットは後にも登場することでしょう(追補:→「怪奇城の階段」の頁でも触れました)。  『呪いの館』 1966 約36分:第二の螺旋階段、真上から
 手前から奥へ、三つの部屋が数珠つなぎに並んでいるというか、区分けされた部屋状の廊下というか、画面左寄りで扉口が並行する位置で奥へと三つあります。壁は壁紙で覆われています。一番奥の扉口から医師が手前へ進んでくる。手前右に鎧が置いてあります。  『呪いの館』 1966 約37分:数珠つなぎの部屋(アンフィラード)
 右手前まで来るとカットが切り替わり、左奥から出て手前に進む。奥の壁右手に鎧が置いてあり、緑に染まっている。壁は青い。この廊下は暗く、蜘蛛の巣がかかっています。
 向こうの方に扉があり、閉じられます。手前右では蜘蛛の巣と青緑の光を浴びた何かがある。
 医師は右から左へ進みます。肩から上で、背を向けている。カメラも追います。途中で照明が緑から青に変わる。
 扉の前まで来ると、中から開いて、白髪混じりの女性が出てきます。グラプス男爵夫人(ジャーナ・ヴィヴァルディことジョヴァンナ・ガッレッティ)でした。彼女は医師を追い返し、また扉を閉じます。中が映される。けっこう広い部屋で、中央に天蓋付きのベッドが配されています。ただし蜘蛛の巣だらけです。夫人は左から右へ、部屋の奥に進みます。カメラもそれを追う。風の音が鳴っています。奥には暖炉がある。左手の窓のカーテンが風で揺れます。夫人は椅子につく。向かいに楕円形の鏡があります。像が歪みだす。

 帰り道となります。古城映画的山場の再開です。
 医師は壁画のある廊下を奥から手前へ進んできます。振り向くと、奥に少女(ヴァレリオ・ヴァレリ。[ IMDb ]の Trivia によると少年が演じているとのことです)がいました。金髪で、ゆったりした白いワンピースを着ています。両手で白い鞠を胸の前に抱えています。声をかけると少女は左奥へ引っこんでしまう。医師は背を向けて奥へ向かい、左奥を覗きこみますが、見当たらなかったようです。  『呪いの館』 1966 約40分:壁画のある廊下、メリッサ登場
 また振りかえる。廊下が逆から見られます。壁画のある壁が右に来ている。奥に少女がいました。鞠は手にしていません。「あたしはメリッサ」と言う。笑い声以外で唯一の台詞となります。医師は左奥を確かめ、また前を向くと、少女の姿は消えていました。鞠が左から飛んできて、1度跳ねて右の扉口へ入っていきます。医師は廊下を奥から手前へ走ります。カメラは右から左へ振られる。背を向け右の螺旋階段に通じる扉口に向かう追補:→「怪奇城の廊下」の頁、「怪奇城の画廊(後篇)」の頁も参照)。  『呪いの館』 1966 約41分:壁画のある廊下、メリッサ反対側に
 螺旋階段が真上から見下ろされます。やはり画面上の方は青く、下はオレンジです。少女が駈けおりていきます。  
今度は真下から螺旋階段が見上げられる。手前は茶色で欄干が黒い。左上方は緑、さらに上は青でした。  『呪いの館』 1966 約41分:第一の螺旋階段、真下から
また真上からの俯瞰に切り替わります。医師がおりていきます。  『呪いの館』 1966 約41分:第一の螺旋階段、真上から
 廊下です。左奥から出てきて手前に進む。 『呪いの館』 1966 約41分:廊下
視線の先で廊下の奥へ鞠が跳ねていきます。奥には半円アーチがある。前向きの医師がカメラの前を横切り背を向けて奥へ向かう。背後に影を落としています(追補:腕付き燭台について→「怪奇城の廊下」の頁で触れました)。  『呪いの館』 1966 約42分:廊下、反対側。跳ねる白い鞠
 なお鞠を玩ぶ少女のイメージは、フェリーニによる『世にも怪奇な物語』第3話(1968)に引き継がれたと見なされているようです(下掲『黒沢清の恐怖の映画史』(2003)、pp.174-175。また「イタホラは漫画から生まれる」、『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』、2008、p.103)。 
 入った部屋の向かいの壁には少女の肖像画がかかっています。医師が右手前に消えた後、カメラは前進して近づきます。写実はしっかりしていますが、色のバランスがとれていないようです。少女は唇を結び、目を見開いている。やや下向きの、怖い顔つきでした。少女のすぐ右に髑髏が配されているのですが、これがずいぶん大きい。前年の『バンパイアの惑星』(1965)に登場した巨大骸骨ほどではないにせよ、少女の身の丈に対しあきらかに度外れといってよいでしょう。カメラは下向きになります。銘が"MELISSA GRAPS 1880-1887"と読めます追補:→「怪奇城の画廊(中篇)」でも少し触れています)  『呪いの館』 1966 約42分:メリッサの肖像
 モニカがうなされています。画面が揺らめきやや歪んでいる。  『呪いの館』 1966 約43分:ひずむ視野
肖像画、歪んだ男爵夫人……メリッサ、禿げ人形、上から見下ろした螺旋階段……跳ねる鞠、玄関など、そして地面に倒れた自分が真上から見下ろされる。1930~40年代の怪奇映画でしばしば挿入されたフラッシュバック(『狂恋:魔人ゴーゴル博士』(1935)、『狼男』(1941)、『ドラキュラとせむし女』(1945)などなど)や、『アッシャー家の惨劇』(1960)以降のコーマンによるポー連作での悪夢や惑乱の諸場面が連想されるところです。
 モニカは飛び起きる。足もとに禿げ人形が置いてあります。目をそらし、また見ると消えている。
 風で窓がバタンと開きます。

 また村の路地です。奥の半円アーチから医師が出てきます。アーチの向こうは青い。手前右の柱はオレンジです。右からモニカが現われる。鐘が鳴ります。二人は見上げる。下から鐘塔が見上げられます。カメラは上から下へ撫でる。誰も鐘を鳴らしていない。
 宿屋の入口付近が下から見上げられます。亭主が出てきます。日本語字幕によると、塔で少女が死んで以来、人が死ぬといつも鐘が鳴る、少女は7歳くらいで、ロープにつかまって死んだ、名はメリッサだという。


 医師が宿屋の2階に戻りかけると、うめき声が聞こえてくる。奥に入ります。ナディーンでした。掛け布をめくるとからだに茨の蔓を巻きつけています。ナディーンは「彼女は私を選んだ」と言います。

 教会の前です。左奥から手前へ右向きで馬車が出てきます。教会は青く、地面は赤茶です。馬車にはルースと男2人が乗っており、シーツに包んだ遺骸を運びます。
 墓掘りのさまが上から見下ろされる。手前にこぶだらけの木の幹が映っています。カメラは右から左へまわり、さらに左へ行くと先に検屍小屋の窓が見える。
 
 小屋の中に視点は切り替わります。窓の前に置かれた大きな花輪が風で揺れます。カメラは後退する。イレーネの亡骸が映ります。カメラはそこでいったん止まり、次いで前進します。扉が勝手に開く。上から白い鞠が飛びこんできて、手前へ、亡骸をまたいで跳ねます。  『呪いの館』 1966 約51分:検屍小屋、飛びこんでくる白い鞠
 墓掘りの様子をはさんで、床近くから右のテーブルが見上げられます。上から垂れた布が下に滑り落ちます。  『呪いの館』 1966 約51分:検屍小屋、ずり落ちる白い布
 医師の部屋の窓が風で開きます。宿屋の2階の部屋です。外を見ると墓地にあかりが見える。モニカも見たと合流します。見に行くと、シーツに包まれていたのは警部でした。 
 ナディーンがうなされています。ベッドの頭の曲線装飾とその影がまたしても絡みあっています。カメラは左から右へ動く。赤み、暗がり、青みを経る。また左からベッドへ向けられる。下から上へ撫でる。正面、かなり上から見下ろします。  『呪いの館』 1966 約54分:宿屋、家族の部屋、ベッドの頭の装飾とその影、右手前にランプ
 裏口の窓が映されます。手前・上の壁に何か壺の上部のような影が落ちています。左側の壁はオレンジで、裏口を含んで右は青です。カメラは前進する。窓に外から手がはりついています。すぐ左に手の影が落ちている。
 正面・上からベッドが見下ろされる。カメラは下向きになる。裏口への急速ズームインを経て、カメラはベッドの方へ前進します。少し上からの角度です。また急速ズームインで窓の向こうの少女が映される。肩から上の姿でナディーンがとらえられ、起きあがって前へ進みます。カメラは後退する。そして惨事が起こるのでした。

 奥に半円アーチのある路地が下から見上げられます。アーチから医師とモニカが出てくる。右に右上への階段が見えます。先にあるのは村長の家です。
  2人は中に入る。楕円形の鏡にその姿が映ります。カメラは右から左へ動く。シルエット化した椅子の背があります。カメラはそのまま回りこみ、椅子の斜め前まで来る。
 村長はモニカが両親だと思っていたのは実の親ではなく、館の使用人だったと告げます。村長は書類をとりに奥の階段をあがる。上の部屋の戸棚を開けると少女がいました。
 悲鳴を聞いて医師とモニカは上の部屋に急ぎます。村長の屍体を見てモニカは逃げだす。彼女を追う医師も含め、5カットかけて玄関前の路地までたどられます。
 
 トンネル状の路地の奥から医師が出てくる。すぐ後にモニカがついてきます。医師は村長が死んだと村人たちに呼びかける。  『呪いの館』 1966 約1時間2分:トンネル状路地
下から宿屋の前が見上げられます。左下は青く、扉の右は赤茶です。医師がまじないを外したせいでナディーンが死んだと、亭主は医師に銃を突きつけて追い返します。無理もありません。
 医師は鐘を鳴らす。やや下からモニカがアップになる。右上を向いていたのが首を回し、左下に向ける。

 以下、街路映画的山場となります。
斜めに路地が見下ろされる。猫が向こうへ走り去ります。猫が駆け抜けるのは2度目です。  『呪いの館』 1966 約1時間3分:猫が横切る路地
次いで斜め下から宿屋の方が見上げられる。奥の方の壁で影が左から右へ動く。  『呪いの館』 1966 約1時間3分:宿屋
今度は斜め上からトンネル状の路地です。左は緑、右は青、右上は赤茶です。 『呪いの館』 1966 約1時間3分:トンネル状路地
また別のトンネル状の路地です。カメラは水平になっている。奥の方の光がいったん消え、また射します。  『呪いの館』 1966 約1時間3分:トンネル状路地
村長宅前が下から見上げられる。 『呪いの館』 1966 約1時間3分:村長宅前
また切り替われば、右に斜面のある路地が斜めに映る。  『呪いの館』 1966 約1時間3分:右に斜面のある路地
また別の路地です。やはり斜めの角度です。人影がある。 『呪いの館』 1966 約1時間3分:路地
最後に墓場と灯りのともった検屍小屋が映されます。この間ずっと鐘が鳴り続けていました。風も音を立て、霧が流れます。狂喜乱舞すべきシークエンスではありました。

 気がつくとモニカがいません。医師は探す。かなり下から見上げられます。右にアーチの2つある壁、左にも壁が見える。奥の方は夜の暗い青空です。
 
 上から見下ろされた、その下にモニカがいます。左に扉口がある。扉口の向こうは右に格子戸があり、緑に染まっています。左の壁は赤茶です。その左手前にはアカンサス柱頭つきの円柱が立っています。 『呪いの館』 1966 約1時間4分:くぼみの扉口
 呼びかける医師が下からとらえられる。背後では中央上から左下へアーケードが伸びています。
 医師がモニカに追いつき、2人は左へ進む。古城映画的山場がまた始まります。
 
扉口の向こうにのぼり階段があります。左手の壁は洞窟の中であるかのようにごつごつしています。モニカは前に来たことがある感じがするという。格子戸が勝手に閉じます。2人は左へ進む。  『呪いの館』 1966 約1時間5分:くぼみの扉口を入ったところ
洞窟状の通路を2人は右奥から出て左手前へ向かう。手前左には暗青色の円柱が立っています。右には緑の壁(追補:→「怪奇城の地下」でも触れました)。  『呪いの館』 1966 約1時間5分:洞窟状通路
 左前から中央奥へと壁が伸びる。奥から2人がやってきますが、向こうは低くなっているようです。やや上からの角度です。2人の背後は暗青色、右上の壁は赤を帯びています。奥から登ってきて、平らな廊下を手前へ、手前はまた数段低くなっています。  『呪いの館』 1966 約1時間6分:台状通路
 左へ進むと、方形の扉口があります。向こうは右に幅広ののぼり階段が見える。切り替わると、右の扉口から2人が入ってくる。右奥の壁の前にはえらく太い、背の低い円柱が見えます。少し進んで、幅広階段をおりる。3段ほどです。扉の外から見えたのとは別物です。医師は「一族の墓か」と呟く。   『呪いの館』 1966 約1時間6分:地下墓所、入口附近
カメラが右から左へ振られると、先に横臥像をのせた石棺があります。蜘蛛の巣だらけです。奥には5段ほどの幅広階段がのぼっている。さらに左へ、奥に半円アーチの扉口があり、向こうは暗青色の戸外のようです。木のシルエットが見え、右に欄干がのぞく。ここにはまた再訪できることでしょう(追補:→「バルコニー、ヴェランダなど - 怪奇城の高い所(補遺)」の頁でも触れました)。  『呪いの館』 1966 約1時間6分:地下墓所、奥、バルコニーへの開口部
 カメラは上から下へ、そして右へ回転するように撫でます。その先の水平の墓石には"MELISSA GRAPS / 1880-1887"とある。カメラはまた上から下へ、2人をとらえる。2人は奥の半円アーチの向こうをのぞきますが、医師は上を見ながら、日本語字幕によると「高すぎて無理だ」といいます。昇れないということでしょうか。2人が通って来た通路、そして墓所もおそらくは地下に位置するものと思われますが、半円アーチは崖にでも開いているのか。後に再登場する際とあわせて、いささか頭を悩まされる点なのでした。 
 2人は右から左に急ぎます。先に左上がりの階段が10数段ほどある。画面手前に円柱が立っており、柱頭付近は緑、柱身は真っ黒です。階段はその向こうに見えます。左の壁は青、右の壁は白っぽい光があたっています。階段をのぼった上には鎧が置いてある。鎧の左側はオレンジで、右側にも真っ黒な扉口らしきものがあります。2人は背を向けて階段をのぼり、オレンジの方へ進みます。  『呪いの館』 1966 約1時間7分:階段
 廊下が少し上から眺められる。2人は左奥から出てきます。手前まで進み、背を向けて右へ行く。左の壁の角には鎧、右の壁には綴織がかかっていました。  『呪いの館』 1966 約1時間7分:廊下
 入った先はメリッサの肖像画の部屋でした。モニカが肖像画に気づくと男爵夫人が登場します。夫人は二人を左奥の扉口へ導く。入ると、左から夫人、シルエット化した医師、モニカが出てくる。医師の背後では後光のような光が射しています。右上から左下へ大きく白布がかけてある。ここは子供部屋でした。人形だらけです。人形たちの間で椅子にメリッサが腰かけていました。

 約1時間10分弱、本作のハイライトの1つが始まります。
 
「ポール」の声に医師が左へ目をやると、先にあった扉が閉まります。扉を開けて入ると、切り替わって右から出てくる。背を向けて左へ進みます。左先にある扉がまた閉まります。カメラも右から左へ動く。  『呪いの館』 1966 約1時間11分:追いかけっこと堂々巡りの部屋、右奥に館の絵(?)
また切り替わって、右から出てきます。同じような部屋が続きます。やはり左に扉がある。入るとまたしても同じような部屋です。右から左へ進む。また相似た部屋です。右から左へ、先の扉の向こうへ行く人物の背が見えます。医師は追う。また右から左へ、先行する背中向けの人物と追う医師。また右から左へ、追い追われる2人、さらにもう1度右から左へ、速度が速くなっています。また繰り返し、しかし今度は追いつき、肩に手をかける。相手が振り向くと自分自身なのでした。
 医師は顔を伏せ、また見上げると、左の扉が閉まります。駆け寄りますが扉は開かない。右へ戻る。カメラも右へ、しかしこちらの扉も開きません。また左へ、カメラもそれを追います。背後の壁いっぱいに館の大きな白黒写真が貼ってあります(
追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました)。気づくと実際の館のかなり手前で、前向きになって蜘蛛の巣に背をはりつけていました。気を失ないます。館の前景がはさまれます。

追補:
ドッペルゲンガーはさておき、空間に関して上の状況を言い当てたかのような文章にたまたま出くわしました;
「例えば、あなたが部屋の中にいて、四方にドアがあるとすると、右のドアを開けて入ると、同じ部屋の左のドアから出てくる。後ろのドアを開けて入ると、前のドアから出てくる。さらに、床に開いたマンホールを開けて入ると、同じ部屋の天井に開いた穴から出てくる、という調子だ」。
この文章は、
 松原隆彦、『宇宙は無限か有限か』、2019、p.149
で見かけたもので、宇宙のありうるトポロジーの内、「3次元トーラス構造」(同上)を説明するためのたとえなのでした。

 気がつくと、カメラは右へ振られる。ルースの部屋でした。モニカはメリッサの妹で男爵夫人の娘だと医師に告げます。その言葉とともに、館内のモニカと夫人が映される。

 夫人の部屋です。日本語字幕によると。男爵夫人はモニカに母だと名乗り、危険から遠ざけるために手もとから離したと告げます。
 霊感のある私は霊媒として利用されている。ここの霊たちは私を嫌っている。霊たちの目的は私を彼らと同じにすること。メリッサは私を助けない。あの子はこの時を20年間待っていたという。
 いろいろと気になるところです。「ここの霊たち」とは何者なのか。またメリッサの死後20年経ったとすると、物語は1907年、すでに20世紀の話となります。とてもそうは見えません。

 男爵夫人はモニカを逃がします。壁画のある廊下を左奥から出てきて手前に進む。右手前の鎧が倒れます。『血ぬられた墓標』の一場面が思いだされるところです。壁にはりついたモニカの右手にメリッサの手が触れます。目をそらし、また振りかえるといない。笑い声だけが響きます。
 モニカは逃げだし、手前右を折れると、上から螺旋階段が見下ろされます。モニカはおりていく。

 次いで真上からの螺旋階段再びです。上半はオレンジ、右下はグレー、螺旋の下の段は青に染まる。モニカはおりていき、いったん見えなくなり、下の段でまた見える。上を見上げます。螺旋中央の宙空の下の方は真っ暗になっている。カメラだけがこの暗がりに急速ズームインして画面も真っ暗になる。すかさず急速ズームアウト、またブランコのように上下します。
 
また引きの俯瞰になり、モニカが下へおりていく。姿が見えなくなると、白い鞠が跳ねながらおりていきます。  『呪いの館』 1966 約1時間18分:螺旋階段、真上から、跳ねる白い鞠
 肩から上のアップで首を上下するカットをはさんで、真上からの螺旋階段に切り替わり、次いで真下からの螺旋階段となる。手前は赤茶、左下から緑、その上は青、宙空は黒です追補:→「怪奇城の高い所(後篇) - 陽など」の頁でも触れました)。  『呪いの館』 1966 約1時間18分:螺旋階段、真下から
螺旋階段ごとカメラは右回りに回転します。モニカは左回りでおりてくる。またアップをはさんで、真下からの回転螺旋階段にもどります。モニカはまた上からおりてきます。医師が先だって経験させられた堂々巡りの変奏でしょうか。ぐるぐるぐる。倒れたモニカをカメラは真上からとらえる。先の悪夢で見た光景です。カメラは上昇します。気づくと地下墓所でした。

 楕円形の鏡に男爵夫人が映っています。おそらくこれが交霊を表わしているのでしょう。扉からルースが登場します。日本語字幕によると、約束を破ったね、もうあなたは奴らのもの、そして娘に見捨てられたと言います。約束というのは恋人である村長の安全を指すものと思われます。責め立てられた夫人は暖炉の火掻き棒に手を伸ばす。 
 肖像画の部屋に左から医師が入ってきます。モニカの名を呼ぶ。左の方へ戻り、子供部屋に入る。また右に戻ります。  『呪いの館』 1966 約1時間20分:子供部屋、入口附近
しかしカメラだけが左に振られ、椅子の上の人形の首のところで止まります。首が転げ落ちる。
 さらに左へ動くと床に禿げ人形が転がっています。カメラは少し左へ、伸ばされた手を追って上昇するとモニカでした。しゃがんで人形を抱きあげると、下に水平の墓碑があり、
"MONICA GRAPS / 1886"と刻まれている。
 狭い廊下を医師が右奥から左手前へ走ります。奥は暗青色で、のぼり階段がある。天井は赤を帯びている。以前通った、いったんあがって水平になり、手前でさがって左に墓所となるところです。ところが今回は扉が閉まっている。
 扉の上方には覗き窓があり、十字の格子で区切られています。覗き窓がアップになり、右に医師の頭部後方が配されます。格子の下面および左側面が緑に照らされている。窓の向こうの奥の天井付近は赤みを帯び、その下に小さく禿げ人形を抱いた白ドレスのモニカが立っています。彼女の左背後には半円アーチの扉口が青に映えている。
 医師は入れてくれと声をかけますが、モニカは怯えて奥へ行く。扉口の先はバルコニーでした。ルースが夫人の首を絞めて突き放す。扉が開いて医師が飛びこみ、右から左に駆けます。バルコニーの欄干が崩れ、モニカは落ちそうになる。危ないところを医師が引っ張りあげます。画面手前では枯れ枝が網の目をなし、背後の空は暗青色です。少し白く光っている箇所もあります追補:→「バルコニー、ヴェランダなど - 怪奇城の高い所(補遺)」の頁でも触れました)。メリッサのアップになる。片目から涙が一滴垂れています。後退し、消える。火掻き棒に胸を刺されたルースは、男爵夫人の上に倒れこむ。
 モニカと医師は左側の扉口から出てきて、肖像画の部屋を通りぬけます。メリッサの肖像画以外にも壁や床に絵が立てかけてあります。蜘蛛の巣だらけです。2人が背を向けて奥の扉口に消えると、カメラは左にパンし、肖像画をとらえるのでした。
 夜の館前景です。左右手前を木が縁取っています。小さく2人は奥から手前へ進んできます。切り替わって背を向けた2人が1度振り返る。向こうに低く太陽が見えます。朝日でしょうか。かくして終幕となるのでした。


 本篇の主人公は確かにジャコモ・ロッシ・ステュアート演じる医師でしょう。画面に映っている時間は一番長そうですし、村の路地をうろうろして村人の襲撃を受け、お城の入口から階段をのぼり廊下を通るという重要な場面を受け持ち、あまつさえドッペルゲンガーと鬼ごっこして同じ空間、そしておそらくは同じ時間を堂々巡りするという得難い目にも遭っています。ルースの呪術的な処方を解いてしまってその結果ナディーンを死に至らしめるきっかけを作ってしまうものの(その結果に対する反応は描かれない)、最終的にはモニカを転落から助けることができました。
 とはいえモニカを救いえたのは地下墓室へのドアが開いたからであり、ドアが開いたのはルースが霊媒である男爵夫人を倒したからでした(
追補:村の魔女であるルースと男爵夫人は。ある意味で似た者同士なのでしょう。男爵夫人はまた、『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(1963)第三話における女伯爵にも通じています)。主人公があまり役に立たないのはこのジャンルでは珍しいことではありませんが、それ以上に彼は、今回の事件の根幹には関わっておらず、その意味では最後まで村に対しよそ者にとどまったと見なすことができるでしょう。事件を引き起こしたのは霊媒である男爵夫人、実行犯はその娘メリッサ、標的はメリッサの妹であるモニカ、そして解決したのは村の魔女であるルースでした。
 またこの点で、事件の中枢にいた人物が皆女性であることも目を引きます。最後まで生き残った医師以外の主な男性たち、警部と村長はいずれも途中で死んでしまう。警部にいたっては死の経緯すら省かれています。先立つ『血ぬられた墓標』では悪の親玉は200年前に処刑された魔女だとして、彼女には実働班としての男性パートナーがいましたし、狙われる側の焦点が魔女と瓜二つの子孫であれ、彼女のまわりには父や兄弟、二役を見破ったという点で一応役に立ったよそ者がついていました。『白い肌に狂う鞭』での悪玉は放蕩息子で、主人公はそのかつての婚約者ですが、こちらにも最終的には役に立たなかった夫などの男性陣が取り巻いていた。対するに本作では物語の駆動源はすべて女性で占められています。バーヴァ怪奇映画の展開の中でここに何か意味があるのかどうかはよくわからないのですが。続く『処刑男爵』(1972)と『リサと悪魔』(1973)はともに女性が主人公をつとめるものの、前者の悪役は男性、後者ではタイトルどおり悪魔(男性)が登場するとはいえ、むしろ主人公の巻きこまれた状況そのものが主役となることでしょう。
 他方、大半の作品でヴィンセント・プライスの存在が軸となるコーマンによるポー連作、全てではないにせよ少なからぬ作品で女性は彩り要員だったハマー・フィルムの諸作品(『宇宙からの侵略生物』(1957)、『フランケンシュタインの逆襲』(1957)、『吸血鬼ドラキュラ』(1958)などなど)と、主人公が多く女性であるバーヴァの怪奇ものとを比べてみるのも一興でしょうか
追補:とはいえコーマンのポー連作の内、「怪異ミイラの恐怖」(1962)、『怪談呪いの霊魂』(1963)、『赤死病の仮面』(1964)、『黒猫の棲む館』(1964)では、女性が視点の位置を占めていました。ただし『怪談呪いの霊魂』を除いて、クライマックスではなぜかいずれも、人事不省に陥ったり退場したりするのでした。
 また、常にではないにせよやはり男性が主導することの多い1930~40年代のユニヴァーサルの作品と、常にではないにせよしばしば女性が視点になるRKOにおけるヴァル・リュートン製作作品とを比べることもできるでしょうか)。

 
Cf.,

The Horror Movies, 2、1986、p.68

黒沢清+篠崎誠、『黒沢清の恐怖の映画史』、2003、「3. マリオ・バーヴァとヨーロッパ怪奇の神髄」、とりわけ pp.140-152

「『呪いの館』 1966」、『没後40年 マリオ・バーヴァ大回顧 第Ⅰ期』 ブックレット、2020、pp.21-22

岡本敦史、「『呪いの館』に息づく恐怖の女たち」、同上、pp.23-24


Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.138-139

Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, pp.84-88, etc.

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.662-687

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, pp.48-50, 56

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015, pp.159-165

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.168-171

 バーヴァに関して→こちらも参照:『血ぬられた墓標』(1960)の頁の Cf.

イアン・ネイサン、阿部清美訳、『ギレルモ・デル・トロ モンスターと結ばれた男』、フィルムアート社、2022、pp.183-184

では、ギレルモ・デル・トロの『クリムゾン・ピーク』(2015)を取り扱う中で、バーヴァがデル・トロへ及ぼした影響に触れています。同書については→こちらでも挙げました:「〈怪奇〉と〈ホラー〉など、若干の用語について」の頁の「〈怪奇〉と〈ホラー〉、ゴシックなど


 フェリーニの『世にも怪奇な物語』第3話(1968)に続いて、白い鞠付きの白衣の死せる少女というモティーフを引き継いだのが、

 『ウィッチ・ストーリー』、1989、監督:アレッサンドロ・カポーネ

でした。少女が使い魔的な位置づけである点では、『呪いの館』により近いと見なせるかもしれません。またこの作品の冒頭は、『血ぬられた墓標』(1960)をやはりそのまま引き継いでいます(『死霊の町』(1960)、『女ヴァンパイア カーミラ』(1964)、また『怪談呪いの霊魂』(1963)に『惨殺の古城』(1965)またしかり)。
 前半の舞台となる屋敷は充分広いとはいえますまいが、あまり大きくはなさそうな階段を上っていく場面は悪くない。また屋根裏部屋から地下まで直接降りているらしい竪穴と、そこから伸びる隠し通路に隠し部屋がありました。
 後半で脈絡はよくわからないのですが、舞台が人のいないアパートらしき廃墟に移ります。二度ほど映された廊下のショットは魅力的でした。
 また未見ですが

 Un gioco per Eveline, 1971、監督:マルヴェッロ・アヴァッローネ

にも白い鞠付き少女の幽霊が登場するとのことです;
Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1970-1979, 2017, p.28. また安井泰平、『ジャッロ映画の世界』、彩流社、2013、p.240 も参照。

 〈邪悪な子供〉というモティーフは『悪い種子』(1956、監督:マーヴィン・ルロイ、未見。町山智浩、『トラウマ映画館』、2013、pp.72-83:「7 『悪い種子』」参照)をはじめとして、いろいろ取りあげられてきたのでしょう。『未知空間の恐怖/光る眼』(1960、監督:ウルフ・リラ)や『回転』(1961)もその例に数えることができるかもしれません。ここではたまたま同じ年に公開された日本のTV番組を挙げておきましょう;

『ウルトラQ』第25話「悪魔っ子」、1966年6月19日放送、監督:梶田興治

 『ウルトラQ』から→そちらも参照:『ウルトラQ』第9話「クモ男爵」(1966)の頁

 2015/6/25 以後、随時修正・追補
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